【管理栄養士さんに教えてもらおう】味の素は体に毒?~うまみ調味料の噂について聞いてみた~

筆者が大学生のとき、自炊をしていて気がついたことがひとつあります。

味の素を入れると、大抵の料理がおいしくなるぞ……!

あの頃の私は味の素のとりこでした。
味噌汁や冷ややっこ、卵かけご飯、パスタ、お刺身をつける醤油にまで味の素を一振り、二振り……。
しかし、ある日SNSで目を疑う書き込みを見つけました。

ネットの噂
味の素をはじめとしたうま味調味料には発がん性物資が含まれているので危険です!

ネットの噂
味の素は化学調味料なので味覚に悪影響を及ぼすから使わないほうがいい。

ネットの噂
みんな知らないけど味の素の社員は味の素を使わないよ

もちろんこれは噂であり、すべてを真に受けたわけではありません。
しかし、今でも味の素を使おうとするたびに「これは本当に安全なのか?」という考えが頭をよぎり、最後の一振りをする手が止まってしまうのです。
そこで、こころおきなく味の素を振るために、管理栄養士さんに味の素の安全性について聞いてみました。

味の素は体に悪いの?

SNSなどで味の素に関する悪い噂を耳にする機会が多く正直不安です。
私は大好きなのですが、これからも味の素を使っても大丈夫なのでしょうか?

小林管理栄養士
大丈夫です!
味の素の原材料であるグルタミン酸ナトリウムは国際的な公的機関で安全性が認められています。

グルタミン酸ナトリウムは安全性が認められている

味の素をはじめとするうまみ調味料は、基本五味の1つ「うまみ」を食品に付加することを目的とした食品添加物です。
うま味調味料の主成分は前述のとおり「グルタミン酸ナトリウム」というアミノ酸の一種です。
また、ほかにもうまみ調味料には、同じくアミノ酸である「イノシン酸ナトリウム」や「グアニル酸ナトリウム」などが含まれています。

グルタミン酸ナトリウムは前述のとおり食品添加物であり、自然界に全く同じ物質は存在しません。
ただ、グルタミン酸は昆布やチーズ、トマト、味噌などの身近な食品に含まれています。

そのグルタミン酸にナトリウムを付加し、水に溶けやすくしたものがグルタミン酸ナトリウムです。

味の素には発がん性物質が含まれている?

味の素には発がん性物質が含まれているという話も聞いたことがあるのですが……。
小林管理栄養士
味の素に発がん性物質は含まれていないので、安心してください。
発がん性物質はあくまでも噂です。

味の素に発がん性物質は含まれていない

味の素の原料はサトウキビですが、50年ほど前に味の素社の一部製品が石油由来の「アクリロニトリル」という原料から生産されていた時期があり、こうした噂からささやかれるようになったと考えられます。
ちなみに、アクリロニトリルについては発がん性を有する可能性を示唆するデータとそれを否定するデータの両方があり、現状ではヒトの発がん性を示す疫学的証拠は得られていないと判断されています。

味の素の製造の流れは以下のようになっています。

①さとうきびの糖蜜を、「グルタミン酸生成菌」という微生物を使用して発酵させる
②グルタミン酸生成菌が糖蜜の糖分をグルタミン酸に変える
③できたグルタミン酸を、使用しやすいグルタミン酸ナトリウムにしたのち、フィルターや活性炭を使用して純度を高める
④濃縮、乾燥して完成

遺伝子組み換えサトウキビを使用しているので安全性が心配

味の素は遺伝子組み換えのサトウキビを使っていると聞きました。
遺伝子組み換えって……なんだか不安です!

小林管理栄養士
日本で流通している遺伝子組み換え作物は、さまざまな法律にもとづく科学的な評価を行っているので安全性は確認されています!

遺伝子組み換え作物の安全性は確認されている

遺伝子組み換えとは、ほかの生物から有用な遺伝子(DNA)を取り出し、その性質を持たせたい生物に組み込む技術です。
遺伝子組み換え技術を活用することで、食物の生産効率を向上させることができます。
厚生労働省によって日本での流通が認められている遺伝子組み換え作物は大豆、じゃがいも、なたね、トウモロコシ、わた、てんさい、アルファルファ、パパイヤ、からしなの9作物のみで、そもそもサトウキビは遺伝子組み換えされたものが市場に出まわっていません。

また、トウモロコシなどが原料になる場合もありますが、日本で流通している遺伝子組み換え食物はさまざまな法律にもとづく科学的な評価を行い、安全性に問題がないと判断された食品です。
「なんとなく怖い」「遺伝子組み換えは体に悪いと聞いた」といったイメージで曖昧な判断をするのではなく、厚生労働省や農林水産省といった公的機関のホームページなどで、科学的根拠のある情報を入手しましょう。

グルタミン酸ナトリウムはアメリカでは禁止されている?

グルタミン酸ナトリウムはアメリカでは禁止されているという噂もありますよね……。
日本で市販されている商品がアメリカで禁止されることなんてあるんですか?

小林管理栄養士
禁止はされていません。
ただ、以前アメリカでベビーフードへのグルタミン酸ナトリウムの使用を制限する旨の勧告が出されたことがあるんです。

ええ! 以前に使用自粛の勧告があったということですか?
じゃあやっぱり味の素は危険なのですか?

小林管理栄養士
禁止はされていません。
ただ、以前アメリカでベビーフードへのグルタミン酸ナトリウムの使用を制限する旨の勧告が出されたことがあるんです。

アメリカでグルタミン酸ナトリウム使用自粛の勧告がなされた経緯

1968年、アメリカの中華料理店で食事をした人が体のしびれや動悸(どうき)、顔のほてりを訴えたことがきっかけで、味の素の原材料であるグルタミン酸ナトリウムが体に悪い影響を与えるというイメージが根づいてしまいました。
また、それ以前にも研究者や博士によって動物実験のなかで、グルタミン酸ナトリウムが催奇性(妊娠中の女性を介して胎児に奇形を起こすこと)や網膜異常を引き起こすと報告されていた背景もあり、1969年にアメリカで「ベビーフードにグルタミン酸ナトリウムを使用しないように」といった勧告が出されます。

しかし、前述の報告については追試験によって安全性が証明されています。
また、前述の実験のなかには並外れて多量のグルタミン酸ナトリウムを使用しているものも含まれており、その結果を「調味料として使用されるグルタミン酸ナトリウム」に適用することは妥当でないとの見解が発表されています。

WHOがグルタミン酸ナトリウムの安全性を確認

その後、1980年にアメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)が、グルタミン酸ナトリウムを一般に安全と認められる物質である「GARS物質」に分類して再評価しています。
また、そのほかにもグルタミン酸ナトリウムは、国連食糧農業機関(FAO)や世界保健機構(WHO)の合同食品添加物専門会議により「グルタミン酸ナトリウムが人の健康を害することはないので、一日の許容摂取量を特定しない」と評価されています。

グルタミン酸ナトリウムは味覚に影響を及ぼす?

小林管理栄養士
グルタミン酸ナトリウムが味覚に影響を及ぼすという噂もありますが、普段使う量であれば問題ないでしょう。

グルタミン酸ナトリウムはミネラルの一種である亜鉛の吸収を阻害します。
そして、亜鉛が欠乏すると味覚障害が引き起こされるため、こうした情報が広まっているようです。
しかし、グルタミン酸ナトリウムに耐容上限量(ADI)は設定されておらず、通常調味料として使用する分には問題ありません。

味の素は安全!

味の素が安全であることがわかりました!

小林管理栄養士
正しい知識をお伝えできて良かったです。

味の素はじめとしたうま味調味料は安全性が保障されており、通常調理に使用する分には全く問題ありません。上手に使用することで、料理がおいしくなるだけでなく、うまみの力で減塩もつながるのでぜひ活用してみてください。

【参考文献】
味の素株式会社
厚生労働省「遺伝子組み換え食品」

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小林 彩実株式会社ドクタートラスト 管理栄養士

投稿者プロフィール

大学で栄養学や食物学を学び、管理栄養士の資格を取得。「多忙な人にも健康を意識してほしい」の想いから産業保健業界へ。食事はもちろん、ながら運動やインナーマッスルトレーニングなど、運動セミナーも多数実施している。正しい知識をわかりやすく具体的に伝える姿勢が人気。
このほか、特定保健指導や執筆にも広く携わる。
【保有資格】管理栄養士、人間ドック健診情報管理指導士
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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