メタボも飲酒量も増えてる日本人の生活習慣~会社でできる有効的アプローチとは~

2022年10月11日、厚生労働省は健康日本21(第二次)最終評価報告書を公表しました。
この報告書では、2013年度より開始した健康日本21(第二次)で設定した合計53項目の目標に対する達成状況を、さまざまな調査をもとに最終評価をした結果が示されており、主として以下のことが判明しました。(※1)

1. 53項目の目標のうち、「A:目標値に達した」と「B:現時点で目標値に達していないが、改善傾向にある」が合わせて28項目
2. 「C:変わらない」は14項目
3. 「D:悪化している」は4項目
※評価困難が7項目

目標設定時と比較して悪化している項目は「メタボリックシンドロームの該当者および予備軍の減少」「睡眠による休養を十分とれていない者の割合の増加」「生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の減少」「適正体重の子供の増加」でした。
今回は、働く方に関係のある3項目について詳しく説明し、企業の健康管理ご担当の方や働く皆さまのタメになる情報をお伝えします。

メタボリックシンドロームの該当者および予備軍の減少

ウエスト周囲径が男性85センチ、女性90センチ、かつ血圧・血糖・脂質の3つのうち2つ以上が基準から外れると「メタボリックシンドローム」、1つが基準から外れると「メタボリックシンドローム予備軍」と診断されます。
メタボリックシンドロームの該当者及び予備群の⼈数は、最終評価時点の2019年度には約1,516万⼈でした。
この数値は策定時(2009年)の約1,400万人よりも悪化しており、目標値(約1,050万人)からはほど遠い結果となりました。

厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」をもとに筆者作成

また、国民健康栄養調査(※2)より、2013年と比較し、血清総コレステロールが240mg/dl以上の者の割合の増加や、運動習慣(週2回以上、1回30分以上、1年以上)のある者の割合の減少が読み取れます。

厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」をもとに筆者作成

厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」をもとに筆者作成

さらに、厚生労働省「コロナ下の「新しい生活様式」における生活習慣の変化や予防・健康づくりへの影響に関する調査研究」(※3)では、体重やBMIに有意な増加がみられたこともわかっており、これらが要因となり、メタボリックシンドロームの該当者および予備軍が増加したと考えられます。

メタボ改善のために

企業として取り組むことができるのは特定保健指導の実施です。
特定保健指導とは、生活習慣病の発症リスクが高い方に対して管理栄養士や保健師といった医療職が減量のサポートをするプログラムで、具体的には、健康診断結果の振り返りや運動・食事についての目標設定などを行います。
2020年の全国健康保険協会での特定保健指導実施率は15.8%(※4)でした。
特定保健指導の実施義務は医療保険者のみとなっています。
しかし被保険者である従業員に受けてもらうための工夫をすることで、実施率を向上させメタボリックシンドロームやその予備軍の割合を減らすことにつながります。
以下に特定保健指導実施率向上の取り組み例をお示しします。

1. オンラインでの面談の実施
2. 特定健診当日の初回面談の実施
3. 参加者へのインセンティブの付与(ジム利用券など)

また、働く皆さまには特定保健指導というご自身の健康について見つめなおす機会をぜひ活用していただきたいです。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積が診断の前提ですので、摂取カロリーを減らす、運動をする、といったことで減量に取り組みましょう。

睡眠による休養を十分とれていない者の割合の増加

この項目は厚生労働省による国民栄養調査の中の「ここ1か月間、あなたは睡眠で休養が十分とれていますか」という設問への回答を集計したものです。
「睡眠で休養がとれていない者」とは、睡眠で休養が「あまりとれていない」または「まったくとれていない」と回答した者を指します。
睡眠による休養を十分とれていない者の割合(20歳以上)は最終評価時の2018年で21.7%であり、全体として目標の15.0%に達していませんでした。
さらに、策定時(2009年)の18.4%と比較して悪化しているという結果になりました。

厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」をもとに筆者作成

また、2018年の「国民健康・栄養調査」によると、1日の平均睡眠時間が6時間未満の者の割合は、男性で37.5%、女性で40.6%でした。
睡眠時間に関しては「5時間以上6時間未満」と「5時間未満」と回答した者の割合が増加傾向にあり、睡眠時間そのものが減少し休養が十分とれていない可能性が考えられます。

厚生労働省「国民健康・栄養調査」をもとに筆者作成

睡眠時間改善のために

睡眠について企業全体で取り組めることとなるとなかなか難しいかもしれません。
たとえばセミナーを検討される際に、睡眠や休息の取り方といったテーマを候補に入れてみてはいかがでしょうか?
「産業保健新聞」運営元のドクタートラストでも睡眠のセミナーを実施しています。

睡眠時間の確保、となると働く皆さまの生活習慣や業務量が関連してくるので改善しにくい部分かと思います。
ですので、眠りの質を高めるという側面からアプローチしてみてはいかがでしょうか?
以下に眠りの質を高めるポイントをお伝えします。

・ コーヒーや紅茶、緑茶などカフェインを多く含む飲料は夕方以降飲まない
・ 就寝前4時間以降にアルコールは飲まない
・ たばこは寝る2時間前までに済ませる
・ 就寝2時間前くらいに入浴する
・ ブルーライトを発する電子機器類の使用は就寝1時間前までにする

生活習慣病のリスクを高める量を飲酒している者の割合の減少

ここでいう「生活習慣病のリスクを高める量」とは1日当たりの純アルコール摂取量が男性40g以上、女性20g以上と定義されています。
純アルコール40gとは、500mlビール缶2本、350mlチューハイ(7%)2缶、ワイン3杯にあたり、女性だとこの半分以上が生活習慣病のリスクを高める量です。
国内外の研究結果から、1日当たりの平均飲酒量と、がんや高血圧、脳出血などのリスクには比例関係があることがわかっています。
男性では2010年から2019年の間で有意な増減が認められていない一方で、女性は有意に上昇しており、全体としては悪化傾向にあるといえます。

厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書」をもとに筆者作成

厚生労働省によると、女性の飲酒が増加している原因として女性の社会進出が挙げられるとのことです。(※5)
管理職など責任のある仕事に就くことで飲み会の場が増加したためだと考えられます。
また働き方の変化だけでなく、女子会やパーティー、飲みやすい種類のお酒が豊富になったことも理由の1つだといえます。

飲酒量改善のために

飲酒量が多いと、生活習慣病だけでなく肝硬変や肝がんといった疾患のリスクも高まってしまいます。
飲酒は個人の嗜好部分であり介入が難しいところですが、飲酒習慣スクリーニングテスト(AUDIT)を実施されている企業様や適正飲酒量についてのセミナーを実施されている企業もあります。
飲酒量をレコーディングするアプリなどもありますので、ぜひ活用しましょう。
またこの記事を読んでくださっている皆さまはぜひ、以下の適正飲酒量を覚えておいていただけますと幸いです。

男性:1日平均純アルコール20g
※純アルコール20gとは500mlビールだと1缶、7%チューハイ350mlだと1缶、日本酒だと1合
女性1日平均純アルコール10g~13g(男性の1/2~2/3)

新型コロナウイルスの流行やそれに伴う生活様式の変化、食生活の変化に伴い、国民全体の生活習慣も変化しています。
企業の健康経営を担当されている方の中には、何から社員の健康教育を始めるべきか、お困りの方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
健康日本21の最終評価報告を踏まえ、社内でのポピュレーションアプローチの一案として、特定保健指導の実施率向上や生活習慣に関するテーマのセミナー実施などに取り組まれてみてはいかがでしょうか?

<参考>
※1 厚生労働省「健康日本21(第二次)最終評価報告書を公表します」
※2 厚生労働省「国民健康・栄養調査」
※3 厚生労働省「第44回厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会」資料7
※4 厚生労働省「2020年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況」
※5 e-ヘルスネット「女性の飲酒と健康」

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小林 彩実株式会社ドクタートラスト 管理栄養士

投稿者プロフィール

大学で栄養学や食物学を学び、管理栄養士の資格を取得。「多忙な人にも健康を意識してほしい」の想いから産業保健業界へ。食事はもちろん、ながら運動やインナーマッスルトレーニングなど、運動セミナーも多数実施している。正しい知識をわかりやすく具体的に伝える姿勢が人気。
このほか、特定保健指導や執筆にも広く携わる。
【保有資格】管理栄養士、人間ドック健診情報管理指導士
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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