コロナ禍の「新しい生活様式」が生命にかかわる⁉声帯を守ろう!

コロナ禍の「新しい生活様式」が生命にかかわる!?声帯を守ろう!

2020年1月6日に厚労省健康局結核感染症課が「非定型肺炎の集団発生」注意喚起の事務連絡を発表しコロナ禍に突入、「新しい生活様式」として「マスク着用」での感染予防行動が定着して3年目を迎えています。
今年の5月23日付でマスク着用ルールが緩和され、「人との距離」(2m以上が目安)に加え、「会話の有無」という視点で、マスクの着用の必要性の有無が示されましたが、7月には新規感染者数が増加に転じ、第7波到来を迎えました。

このような状況で、在宅勤務やオンラインミーティングが日常となり、出勤していた頃には毎日交わしていた雑談も、今では業務連絡だけになってしまい、人と話す機会が減っている方も少なくないのでしょう。
合同会社DMM.comによる調査では、実際におよそ60%の人がコロナ禍前と現在との比較で、人との会話時間が「かなり減った」「少し減った」と回答しています。

そんななか、「声帯萎縮」「機能性発声障害」による声の不調で受診する方が増えています。
マスクとフェイスシールドを着用して接客を続けていた人がある日声が出なくなり、受診したところ「沈黙療法」での治療が開始となって、職場での配置転換に至ったというケースもあります。
現在はマスクとフェースシールドの併用は、医療職を除く業務では過度な対策といえますが、長引く感染予防対策による二次的な障害も増えているのかもしれません。

そこで今回は声の役割、声帯コンディションのセルフチェック法、声帯をまもるトレーニング&ケア方法について説明していきます。

声帯の役割は声を出すだけじゃない!

◆ 声を出す

声帯は気道の入り口にあって、左右1センチほどの大きさです。
この声帯をぴったりと閉じ、振動させることでいい声が出ます。
しかし、声帯が衰えるとキレイに閉じることができなくなり、声が出しづらかったり、ガラガラ声になったりします。

◆ 健康寿命を守る

声帯は声を出す以外にも健康寿命を守るためのはたらきを担っています。

① 呼吸と正しい嚥下
私たちが呼吸をしながら食事ができるのは声帯のはたらきがあるからです。
鼻から入った空気は気道へ、口から入った食物は食道から胃へ間違いなく入るのは、気道と食道の交差点で声帯がシャッターとしてはたらいてくれるからです。

② 誤嚥予防
①のはたらきがうまく機能しなくなると、誤嚥が起こってしまいます。

◆ 力をこめる

声帯は力を込めるときにもはたらきます。
重い荷物を持ち上げるときや固い瓶の蓋を開けるときなど、無意識にのどの奥に力をこめています。
砲丸投げややり投げの選手が投げる瞬間に大きな叫び声をあげているのは、のどのシャッターを閉めて声を出したほうが大きな力を出すことができるからです。

声帯は、粘膜におおわれた筋肉なので、使わないでいるとやせてしまいます。
やせてしまう(声帯が弱まる)と、電車やバスなどでの予期せぬ揺れに踏ん張ってこらえることができずに転倒してしまったりします。

このように、さまざまなはたらきを担う声帯が衰えてしまうことは、私たちの健康に大きく影響をもたらすのです。

いまの声帯のコンディションはどうでしょうか?チェックしてみましょう

<「あー」テスト>
① 首・肩の力を抜いてリラックスしましょう(立っていても座っていてもOK)
② 口を閉じて鼻からたっぷり息を吸いましょう
③ ひと息で「あー」と声を出し続けられる時間を図りましょう。成人男性なら30秒以上、成人女性なら20秒以上の発声持続が正常です。

やってみよう!声帯をまもるトレーニング&ケア法

衰えてしまった声帯の筋肉もトレーニングで鍛えることができますし、日常のケアで声帯のコンディションを整えることはできます!

◎ チューブ発声法

声帯に無理な力をかけずに鍛えることができます。細いストローほど負荷が上がります。

① ストローを1本用意しましょう
② ストローを口にくわえ、出しやすい音で「うー」と5秒以上発声しましょう
③ これを何回か繰り返しましょう

◎ 唾液腺マッサージ

やさしくマッサージすると唾液の分泌が促され、口がうるおい、のどの乾燥予防になります。
就寝前にも良いですし、食事の前に行えば誤嚥防止になります。

① 両手の親指をあごの骨の内側の柔らかい部分(顎下腺)に当てて、やさしく押しましょう
② 左右の耳たぶの手前(耳下腺)に手を当て、後ろから前に円を描くようにやさしくさすりましょう

先が見えない新型コロナウィルスの感染状況ですが、「新しい生活様式」の定着の中で見過ごされてしまいがちな「本来の機能を果たせていないからだのはたらき」に目を向けることは、将来の健康への投資ともいえるかもしれません。

<参考>
・ 上野哲「マスク着用による生理学的負担」(「日本職業・災害医学会会誌」Vol.69、N0.1、2021 1-8)
・ 佐藤成美他「音声分析によるマスク着用時のコミュニケーション方法についての検討」(「岡山県立大学保健福祉学部紀要」21巻1号、2014、45-54)
・ 渡邊雄介『マスクをするなら『声筋』を鍛えなさい』(晶文社、2022)
・ 加藤元「特集 リモートワークやマスク生活でじりじり悪化⁉ なんとかしたい「絶妙な体調不良」 口腔保健管理のポイント」(「産業保健と看護」Vol.14、No.3、2022、52-55)

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大場 ひろこ株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

助産師として医療機関勤務後、長らく学校保健現場に携わってきました。幅広い年代の方々と関わる中で、働く人々の健康が周囲にもたらすしあわせの輪を広げたいと感じ、現在は産業保健領域で活動中。具体的には、特定保健指導、企業に訪問しての健診判定や救急対応、カウンセリング、アンリ相談員、セミナーなど幅広い業務に携わっています。得意分野は「女性の健康」です。
【保有資格】保健師、助産師、看護師、養護教諭専修、第一種衛生管理者、受胎調節実地指導員、公衆衛生士、女性の健康経営推進員、人間ドック健診情報管理指導士
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