費用面だけの問題ではない「不妊治療と仕事の両立」の難しさ~企業ができる支援とは~

費用面だけの問題ではない「不妊治療と仕事の両立」の難しさ~企業ができる支援とは~

2022年4月から不妊治療の一部で保険適用が開始されたことを機に、不妊治療へ大きな一歩を踏み出す人もいるかもしれません。
ただ、金銭面での負担は軽くなったものの、働く人々にとって不妊治療が「仕事との両立が難しいもの」という現状は変わっていません。
今日は、なぜ不妊治療と仕事の両立が難しいのか、企業側ができる支援に何があるのかについて、不妊治療の実態とともにお伝えします。

仕事と不妊治療の両立状況

近年の日本では不妊治療の件数は増えており、夫婦の5.5組に1組は不妊治療や検査を受けたことがあり(または現在受けている)、2019年には生殖補助医療により誕生した出生児の割合は、約14人に1人です。
このように不妊治療が普及しているなか、仕事との両立が難しく、仕事を辞める選択をされた人も少なくありません。
厚生労働省が調査した結果、仕事と並行して不妊治療を受けている人の87%が「両立は難しい」と感じていると回答しており、治療を断念した人が11%、両立できずに仕事を辞めた人が男女合計では16%、女性でみると23%もいました。
筆者が不妊治療専門クリニックで勤務していた際、「不妊治療のために仕事をやめた」という方を何人もみてきました。
このように残念ながら現状では仕事との両立が出来なかった方が多くいます。

なぜ仕事との両立が難しい?労働者が企業に望んでいることは?

先ほどの調査結果で、仕事との両立ができなかった(または両立できない)と回答された理由で多かったのは、「精神面で負担が大きいため」「通院回数が多いため」「体調、体力面で負担が大きいため」が多くありました。
では、労働者が仕事と不妊治療を両立する上で企業へ希望することはなんでしょうか。
それは、「不妊治療のための休暇制度」や「柔軟な勤務を可能とする制度(勤務時間、勤務場所)」「有給休暇を時間単位で取得できる制度」が多く挙げられました。
現状の働き方では治療のための時間の確保が難しい理由には、通院回数の多さや、所要時間の長さなどがあります。

「受診日が急に決まる」不妊治療

どの不妊治療にはさまざまな方法がありますが、どの治療方法にも共通しているのは以下のように、「通院回数が多い」「次の受診日が急に決まるので、仕事との調整が難しい」ということです。

治療月経周期ごとの通院日数目安
女性男性
一般不妊治療(タイミング療法や人工授精など)診療時間1~2時間程度の通院を2~6日0~半日(手術を伴う場合は1日必要)
生殖補助医療(体外受精など)診療時間1~3時間程度の通院を4~10日+診療時間半日~1日程度の通院を1~2日0~半日(手術を伴う場合は1日必要)

厚生労働省「事業主・人事部門向け 不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」をもとに筆者作成

上記のように、通院回数が多く、また特に女性は排卵周期に合わせた通院が求められるため、前もって治療の予定を決めておくことが困難です。
身体の状態によっては、次の受診日が明日、明後日と急に決まることも珍しくなく、急な仕事との調整が求められます。(事前の有給申請が難しい)
特に生殖補助医療の場合、さらに細かく通院が必要になることが多いです。
加えて診察時間以外に2~3時間の待ち時間、予約が取りにくく希望する時間に受診できないこともしばしばです。
さらに、治療内容によっては身体への負担が出るものもあり、仕事と両立をしたいと考えても、現状がそれを難しくしていることもあります。

企業ができる、不妊治療と仕事との両立支援

不妊治療と仕事の両立支援では、特に「治療のための時間確保」が重要です。
以下では、企業側ができる支援、制度などをご紹介します。

(1)通院しやすい働き方、休暇・休職制度

治療のための時間を確保できるように、下記のような制度を実施している企業もあります。

・ 半日単位、時間単位の年次有給休暇制度
・ 失効年次有給休暇の積立制度
・ 不妊治療のために利用できる特別休暇制度(多目的・特定目的)
・ 時差出勤やフレックスタイム制、テレワーク、短時間勤務等の柔軟な働き方
・ 不妊治療に特化した休職制度、再雇用制度

(2)制度を利用しやすい風土づくり

もちろん、制度を整備するだけでなく、その制度を利用できるように社内意識の醸成も欠かせません。

・ 両立支援についての方針を明確化
・ 制度について周知(社内報、パンフレット、説明会、研修やセミナーの実施など)
・ 都道府県労働局による周知啓発・相談支援
・ 両立に関する相談などについての対応窓口設置

※不妊治療と仕事との両立支援を導入するうえでの、より詳細なステップや事例は「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」に記載されています。

まとめ

今回は不妊治療と仕事の両立のために企業側ができる支援内容をお伝えしました。
何よりも大切なのは、不妊治療をしていることを伝えられる信頼関係です。
不妊治療はデリケートな内容であり、「受け止めてもらえる」という安心感がなければ、中々言い出しにくいと感じます。
まずは、日頃から相談しやすい雰囲気づくりから始めてはいかがでしょうか。
1人でも多くの方が、自分の納得のいく道を歩めることを願っています。

<参考>
・ 厚生労働省「不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査事業(PDF)」
・ 厚生労働省「事業主・人事部門向け 不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル(PDF)」
・ 厚生労働省「不妊治療と仕事との両立サポートハンドブック(PDF)」
・ 厚生労働省「仕事と不妊治療の両立支援のために(PDF)」

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藤居まお株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学病院の消化器外科病棟に看護師として勤務後、不妊治療専門クリニックで体外受精などの生殖補助医療に携わる。看護師としてのキャリアを重ねていくなかで「もっと早く自分の身体、健康に意識してくれていれば」の想いが強まったことから、ドクタートラストに入職。産業保健師としてセミナーや保健指導、産業医導入企業へのフォロー介入など、多方面で活動中。得意分野は「女性の健康」「生活習慣病」「がん(特に消化器系)」など。
【保有資格】保健師、看護師、第一種衛生管理者、人間ドック健診情報管理指導士
【ドクタートラストの保健師サービスへのお問い合わせはこちら】
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