受検率は民間とどれくらい違う?国家公務員の知られざるストレスチェック状況

受検率は民間とどれくらい違う?国家公務員の知られざるストレスチェック状況

2015年12月に施行された改正労働安全衛生法により、従業員数50名以上の事業場ではストレスチェック制度の実施が義務づけられました。
ただしこれは民間でのことであり、国家公務員法附則16条に定めがあるとおり、国家公務員は労働基準法や労働安全衛生法を含む労働関連法の適用対象外とされています。

附則
第16条 労働組合法(昭和24年法律第174号)、労働関係調整法(昭和21年法律第25号)、労働基準法(昭和22年法律第49号)、船員法(昭和22年法律第100号)、最低賃金法(昭和34年法律第137号)、じん肺法(昭和35年法律第30号)、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)及び船員災害防止活動の促進に関する法律(昭和42年法律第61号)並びにこれらの法律に基いて発せられる命令は、第2条の一般職に属する職員には、これを適用しない。

出所元:国家公務員法

「では国家公務員はストレスチェック制度を実施・受検しなくてよい?」と疑問に持たれる方もいるかもしれません。
実は2016年4月に施行された人事院規則10-4「職員の保健及び安全保持」第22条の4においてストレスチェックの実施が義務づけられているのです。

(心理的な負担の程度を把握するための検査等)

第22条の4 各省各庁の長は、職員(人事院の定める非常勤職員を除く。)に対し、医師、保健師その他の人事院の定める者(第3項において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を受ける機会を与えなければならない。

2 前項の検査の項目その他同項の検査に関し必要な事項は、人事院が定める。

3 各省各庁の長は、第1項に規定する検査を受けた職員に対し、人事院の定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、各省各庁の長は、あらかじめ当該結果の通知を受けた職員の同意を得ないで、当該医師等から当該職員の検査の結果の提供を受けてはならない。

4 各省各庁の長は、前項の規定による通知を受けた職員であつて、心理的な負担の程度が職員の健康の保持を考慮して人事院の定める要件に該当するものから面接指導を受けることを希望する旨の申出があつた場合には、当該職員に対し、人事院の定めるところにより、面接指導を行わなければならない。この場合において、各省各庁の長は、職員が当該申出をしたことを理由として、当該職員に対し、不利益な取扱いをしてはならない。

5 第22条の2第3項の規定は、前項の規定による面接指導の結果に基づく必要な措置について準用する。

出所元:人事院規則10-4「職員の保健及び安全保持」

ストレスチェックは使い方次第で、職場環境改善や生産性向上、メンタルヘルス不調の一次予防などにつながることから、「産業保健新聞」運営元のドクタートラストでは、積極的な受検、活用を呼び掛けているところです。
また、最近では集団分析結果などを用いて着実な職場環境改善に取り組んでいる企業事例もさまざま目にするようになりましたが、国家公務員として働く方々のストレスチェック状況はどのようなものでしょうか。

今回は、国家公務員のストレスチェック受検状況や課題、今後の施策を2022年2月に人事院心の健康づくり指導委員会職場環境改善ワーキンググループが公表した「ストレスチェックにおける職場環境改善の取組について~職場環境改善とハラスメント予防について~報告書」をもとにわかりやすく解説します。

受検率6割程度の府省も~施策内容は民間にも適用できそう~

少し前になりますが、2017年7月に厚生労働省が公表した「ストレスチェックの実施状況」によると、民間におけるストレスチェックの受検率は78.0%でした。
これ以降、受検率の調査は行われていませんが、制度の社会への浸透に伴い、現在はより高い受検率であると考えられます。

一方、「ストレスチェックにおける職場環境改善の取組について~職場環境改善とハラスメント予防について~報告書」(以下、報告書)によると国家公務員のストレスチェック受検率は41府省平均で86.7%、8府省では8割以下という結果でした。
受検率の低い原因としては「業務都合」「他の人が受検しているから自分は受けなくても支障がない」などがあがっています。

こうした状況を踏まえ、本報告書では受検率向上に向けて、以下のような施策を提案しています。

・ 実施時期が移動時期直後、繁忙期などに重なっていないか見直し
・ より手軽に受験できるような実施方法の見直し
・ 職員がストレスチェック結果の扱いに不信感をもっていないか確認
・ 受検勧奨の回数増加
・ 受検結果を数値で示すだけでなく、図表を用いてていねいにフィードバック

提案自体は、国家公務員のストレスチェック制度に関するものですが、受検率が上昇せず悩んでおられる民間企業の担当者にとっても大いに参考になるところと考えられます。

府省での設問数は「57項目に18項目追加」が推奨

ストレスチェック制度の調査票は、条件を満たせば企業、事業場ごとに自由なものを利用できますが、一般には設問数57項目の「職業性ストレス簡易調査票」、または働きがいやハラスメントの項目を追加した設問数80項目の「新職業性ストレス簡易調査票」が採用されています。
最近では、ストレスチェックを職場環境改善に活用する観点から、特に80項目版を採用する事業場が増加しています。

では国家公務員の世界はというと、設問数57項目版「職業性ストレス簡易調査票」を基本とし、そこに2016年11月に人事院が発出した「心の健康づくりのための職場環境改善」にて示された職場環境改善に関係する18項目を追加しての実施が推奨されています。
この18項目は、職場における自らの役割や周囲との関係性をどう受け止めているかを把握するためのもので、具体的な設問は以下の通りです。

「心の健康づくりのための職場環境改善」にて追加が推奨された、職場環境改善に関係する18項目
・ 自分の職務や責任が明確である
・ 複数の人からお互いに矛盾したことを要求される
・ 職場でのコミュニケーションが十分とられている
・ 私たちの職場では、助け合おうという雰囲気がある
・ 私たちの職場では、仕事に関連した情報の共有ができている
・ 私たちの職場では、お互いに理解し認め合っている
・ ほめてもらえる職場である
・ 職場でいじめにあっている人がいる(セクハラ、 パワハラを含む )。
・ 私は上司からふさわしい評価を受けている
・ 上司にリーダーシップがある
・ 上司は誠実な態度で公正に対応してくれる
・ 一人ひとりの価値観を大事にしてくれる職場だ
・ 人事評価の結果について十分な説明がなされている
・ 意欲を引き出したり、キャリアに役立つ教育が行われている
・ 仕事上の問題に対して新しい解決策を考えている
・ 仕事で自分を上手に高めることができている
・ 自分の仕事に誇りを感じる
・ 仕事をしていると活力がわいてくるように感じる

もしかしたら上記項目に見覚えのある方もいらっしゃるかもしれません。
実はこの18項目は、57項目版から80項目版にアップデートされるにあたって追加された23項目の一部をなしているものです。

では、実際のところ府省ではどのような調査票が使われているかというと、41府省のうち31府省は従来どおりの57項目版を採用しており、わずかに1府省が18項目版を追加採用、9府省が民間同様に80項目版を採用しています。
57項目版を使い続けている府省では「18項目の追加はあくまで推奨にとどまっている」「項目が増えると受検率が低下する」と理由を説明しています。

さいごに

2021年4月16日に人事院が公表した「2021年度国家公務員採用総合職試験の申込状況について」によると、国家公務員採用総合職試験の申込者数は5年連続で減少しています。
この背景には、「公務員といえば長時間労働」といったイメージが定着しているがためといえます。
ストレスチェックは前述のとおり、職場の環境を改善するだけでなく、メンタルヘルス不調の未然防止など、さまざまな可能性が秘められた制度です。
特に公務員においても同制度を活用した働き方改革が浸透することを願ってやみません。

<参考>
・ 人事院心の健康づくり指導委員会職場環境改善ワーキンググループ「ストレスチェックにおける職場環境改善の取組について~職場環境改善とハラスメント予防について~報告書」
・ 人事院「心の健康づくりのための職場環境改善」
・ 人事院「2021年度国家公務員採用総合職試験の申込状況について」

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蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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