新型コロナウイルス感染症に対してイベルメクチンは期待の星なのか?

コロナ禍において脚光を浴びている薬のひとつに「イベルメクチン」があります。
最近になり使用許可がおりた「抗体カクテル療法」やその他重症者に使用されている「レムデシビル」や「ステロイド」などと違って、経口投与(錠剤)のため、患者自身が自宅で内服できるのが大きなメリットのひとつです。
効果があるなら早く使用できるようにしたら良いのにという声も多く聞かれていますが、実際はどうなのでしょうか?

イベルメクチンがコロナにも効く!?

イベルメクチンは、北里大学の大村智博士らが研究・開発に携わった薬で、 2015年「線虫感染症の新しい治療法」に対して同氏にノーベル生理学・医学賞が授与されました。

線虫感染症と聞いても日本ではピンとこない方が多いと思いますが、 線虫は寄生虫の一種で、さまざまな病気の原因となっています。
失明の原因となる「オンコセルカ症」や、まるで象の足のようになってしまう「象皮症」などの特効薬として、アフリカ地域を中心にイベルメクチンが幅広く使用され、たくさんの人が救われてきたという歴史があります。

日本でも、もちろん以前から承認されている薬ですが、現時点では以下の2つの病気に対してのみ保険適用がされています。

① 糞線虫症(寄生虫による病気)
② 疥癬(ダニによる病気)

頻度の高い病気ではないので、日本に住んでいて「飲んだことがあるよ」という方はあまりいないのではないでしょうか。

そんなイベルメクチンが、新型コロナウイルスに効果があるかもしれない言われたのが1年ほど前のことです。
基本的には寄生虫やダニなどを麻痺させて死滅させる薬ですが、ウイルスの増殖を抑える効果があるのではと言われており、コロナ感染症の初期に投与したり、濃厚接触となった場合に予防的に内服することで、発症の抑制や重症への移行を防ぐ効果が可能性として考えられています。

安易な使用はちょっと待って!

現在、感染者数の爆発的な増加、重症者の増加、医療体制の逼迫により、簡単には入院ができない地域がたくさんあります。
自宅療養となった方は、「なにか治療できる薬はないのか」「自宅でできることはないのか」と本当に不安な気持ちでいっぱいだと思います。
内服薬で治るならイベルメクチンを試したい!という気持ちもとても良くわかります。

SNSをはじめ、ネット上では個人輸入等で海外のイベルメクチンを購入して内服した方もいらっしゃるようですが、そういったことをする前に今一度落ち着いて知ってほしいことがあります。

まず、イベルメクチンの有効性に関しては、今のところ非常にあいまいで、効果があるともないとも言われている状況だということです。

また、もともと日本で使用されていた薬ではありますが、以前からある内服の用法・用量と、今回新型コロナウイルス感染症に対する用法・用量は違います。
さきほどの「糞線虫症」に対しては3mg×4錠を空腹時に1回内服。
その後2週間あけてもう一度4錠内服という飲み方です。(体重60Kgの場合)
「疥癬」に関しては3mg×4錠を空腹時に1回内服。
その後効果がなければ1~2週間後にもう一度4錠内服します。(体重60Kgの場合)。

つまり、体重60Kgの人であれば1回に12mgを1回ないし2回内服することで治療が完結するので、最大でも24mgまでしか内服しないことになります。

ところが、新型コロナウイルス感染症に対する飲み方は、まだ臨床試験(治験)が終了していないので、どの用法・用量でどのように効果をもたらすのか結論が出ていません。

コロナに使う量は通常とは違う

FLCCCというCOVID-19の予防・治療に関するチームによると、

※以下体重60Kgの想定です※
<予防の場合>
12mg(4錠)を1回内服。48時間後に12mg(4錠)内服。さらに、その後週1回12mを内服する。
<治療の場合>
1回12~24mg(4~8錠)を1日1回内服。
5日間連続、もしくは回復するまで投与する。

という方法で他国で臨床試験を行っているようですが、たとえば治療として5日間連続服用した場合、最大で120mg内服することになります。
今まで使用してきたイベルメクチンの用量の5~10倍になるわけです。

どのような薬でもそうですが、投与量を上げると効果も増えますが、副作用の発生も増えるためそのバランスを決める必要があります。
そういったことを臨床試験(いわゆる治験)を通じて行っているのですが、日本国内ではまだイベルメクチンの新型コロナウイルスに対する第三相試験という臨床試験が終了していないため、用量・用法に対する結論がでていない状況です。
従来の内服方法であれば出なかった副作用が、5~10倍の量にした時にどうなるかはデータがないのです。

イベルメクチンは動物実験で妊娠中の催奇形性が認められているため妊婦さんへの投与も慎重に行わなければなりませんし、体重によって投与量を変える必要もあります。
ちなみにワクチンは治験が終わっていないというデマを聞くことがありますが、ファイザー・モデルナワクチンともに第三相試験まで終了しています

現在の日本において海外から薬を個人輸入・使用することは法的に問題ありませんが、今回に限らず海外からの薬の個人輸入はリスクがあることも十分理解してほしいと思います。
万が一ですが、中身が違う可能性もありますし、国によってパッケージや規格が違うため、1錠あたりの含有量が違うこともあります。
個人輸入して自分で内服することは問題ないものの、それを他人に販売したり譲ったりすることは違法なので、その点も気をつけなくてはなりません。

今、藁にもすがる思いの方がたくさんいて、何も治療ができないまま亡くなる方がいらっしゃるのはとても悲しいことです。
フリーアクセスと揶揄されるほど簡単に受診することができる日本においてこの状況は、まさに異常自体だと思います。

イベルメクチンを購入して内服したい人がいても全くおかしくない状況ではありますが、自己責任とはいえ十分に内容を把握しないまま安易に取り入れることで思わぬデメリットを受けることがないようにしてほしいと切に思います。
今後、治験が終わり効果の程度が明らかになることに期待するとともに、治療が確立されるまでは必要な人へのワクチン接種を進めていくことが今できることではないでしょうか。

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田中 祥子株式会社ドクタートラスト 産業保健部 保健師

投稿者プロフィール

企業の健康管理室で働いていた経験をさまざまなかたちで皆さまにお届けします。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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