発達障害グレーゾーンと職場で働くということ ~当事者の視点から~

仕事と発達障害、取り上げられるケースが増えている

今では、さまざまなところで発達障害について見聞きすることが増え、発達障害というものについての認知がかなり一般的になってきたように思います。
この産業保健新聞内でも、何度かご紹介してきました。
発達障害の定義については、こちらの記事で詳しく説明しているので、ご参照いただければと思います。

発達障害として診断されるのは、日本では人口の10%程のようですが、診断には至らないもののこだわりの強さや感覚過敏など一定の特性がある、いわゆる「発達障害グレーゾーン」と言われる人々がいることをご存知でしょうか。

今回は、一般就労している発達障害グレーゾーンという立場から、職場で当事者がどのような問題に直面するのかをご紹介し、また当事者と周囲がどのように協調していけば良いのかを考えていきたいと思います。

なぜ問題が起こるのか

例えば、就業中に雑談をすることがありますよね。
作業する手は動かしながら、取り止めのない話をすることは、日常の一部だという人も多いでしょう。

一方で、特性のある人にとっては、「手元では仕事をしながら」「並行して雑談をする」ことが難しい場合があります。(あくまで筆者の例ですが……)
なぜでしょうか。

1つには、目の前のことに過度に集中してしまうためです。
マルチタスクができない、電話をとりながらメモを取ることができないというのもよく聞きます。
単体の行動であればそれほどではなくても、同時に行うことで難易度がぐっと上がる感覚があります。

2つ目の理由として、APD(聴覚情報処理障害)という症状があります。
聴力に異常はないのに、聞こえている言葉の意味をとることが難しかったり、もしくは周囲の雑音で、会話の必要な部分が聞き取れないことが起こります。
主に複数人での会話で生じることが多いですが、1対1でも聞き返しは多い方だと思います。

3つめの理由として、そもそも複数人で話している会話に入るタイミングをつかむのが困難ということがあります。
自閉症スペクトラム(ASD)の特徴として、社会性やコミュニケーションの障害、簡単に言うと「空気が読めない」でしょうか……。
相手の気持ちがなんとなく分かるから会話に安心して入っていけるものだと思いますが、そこに自信が持てないため、緊張が生まれやすいのです。
雑談であっても、おそらく皆さんが会議などで発言するくらいの緊張感を持っているかもしれません。
このような理由から、あえて雑談では発言せず、むしろ「聞き役に徹する」などの上手な対策をとっている方もいます。

ではこのような特性を持つ人がいると、周囲にどのような影響があるのでしょうか。
電話対応ができない、納期を守れないなどの特性がある場合は、直接的に業務に支障が出ることも考えられますが、ここでは情緒的な側面を考えてみたいと思います。

「カサンドラ症候群」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
正式な心理学用語ではないのですが、アスペルガー症候群の夫もくしは妻を持つ人が、夫婦間での情緒的な交流がうまくいかないことが原因で抑鬱などの症状が出ることを指します。

これはあくまで著者の仮説ですが、私たちは職場の同僚同士で長時間を共に過ごし、心理的なつながりを構築しながら業務をしているので、これと同じようなことが職場でも起こり得るのではないかと考えています。
職場の生産性を上げるために心理的安全性の重要性などが言われる中、このような特性はプラスに働きにくいため、当事者は常に周りに対して申し訳ない気持ちを持っているのも事実です。

「適材適所」「普通と違う」への許容は、いつかあなたを助ける

そのような問題を避ける意味でも、もし当事者本人が、リモートワークへの切り替えや、空いている会議室での作業などを望むのであれば、環境が許すのなら認めることのメリットは大きいと思います。

発達障害の人は感覚過敏があることも多いです(光はより眩しく、雑音は騒音に聞こえてしまうなど)。
環境調整を許可すると、仕事をサボるのではと心配になるでしょうか?

しかし、それは杞憂だと思います。
特性を持つ人たちは、根がとても真面目で、さらに業務を決まった時間内で仕上げることに大きな満足感を得る場合が多いと感じます。
できることとできないことの落差が大きいので、色々なことをバランスよくできて欲しいと期待するよりも、「できる」部分に着目し、任せていく方がお互いのためだと思います。

定型発達の人たちが多い社会で、特性のある人たちは必死に生きています。
「困った人たち」は実は、「困っている人たち」でもあります。
特性のある人の生きる術について、知り合いの精神科医(ASD当事者)はこう言いました。

「息を潜めるか、王国を作るか」

定型発達の人たちの中でカメレオンのように同化し、目立たないよう努めて生きるか。
もしくは突き抜けるかの2択……非常に印象的な言葉でした。

発達障害は生まれつきの脳の特徴であるため、本人が何か悪いわけではありません。
一方で、共に働くという立場の人たちの苦労も、大変大きいものだろうと感じます。
もし周りに特性のある人がいて、フォローが重荷になっていたら、自分だけで抱え込まず、どんどん周りを頼り、自分たちの負荷が軽減する方法を模索してほしい欲しいと思います。
以下の記事も参考にしてください。

★ 支援例、ジョブコーチについて

★ 発達障害の人たちの特性、長所について

まとめ

誰でも得意不得意はあります。
また、人生にはさまざまなライフイベントがあるので、働き方を見直す時も必ずきます。

発達障害に限らず、LGBTQ、育児や介護、闘病などさまざまな特性やライフステージ・多様性を許容できる環境を作ることで、結果的にはあらゆる人にとって働きやすい、生きやすい職場、社会になれば本当に素敵だと思います。

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白石 早希株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

新卒で航空会社地上職員として勤務。同僚の休職や配置転換などを目にする中で、心身のケアの必要性を実感。結婚後、家族がうつ病を発症したこともあり、「健康に働く人を増やす」というドクタートラストの理念に心から共感。また、1児の子育て中のため、時短勤務が可能なことが決め手となり入社。ワークライフバランスや持続可能性への関心が高い。
働く皆様のお役に立てるような記事作成に努めてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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