制度は見直すべき?「裁量労働制実態調査」の結果公表

制度は見直すべき?裁量労働制実態調査

企業の働き方には、大きく3種類の労働時間制度にわけられます。
一般的なのが、始業や終業が労使によって定められている「固定時間制度」。
2つ目に、月間所定労働時間が定められていて、コアタイム以外は労働者の裁量で始業と終業を決められる「フレックスタイム制度」。
そして、労働者の裁量で就業時間を決められる「裁量労働制度」。
「裁量労働制度」は業務の遂行に必要な就業時間の配分が労働者にゆだねられていて、労働者としても自分のペースで仕事ができる点は大きな利点ですが、時間外労働の概念がないため過剰労働になってしまう人も多いことが問題視されています。
では、制限の少ない状態の労働時間は実際にどうなのか? 見直すべき点はどこなのか?
厚生労働省は2021年6月25日、裁量労働制度に関する実態調査を公表しました。
今回はこの「裁量労働制実態調査」のポイントについてわかりやすく解説します。

平均労働時間の比較

「裁量労働制実態調査」は、以下の対象者からの実態調査です。

① 全国の裁量労働制が適用されている事業場11,750ヶ所(以下、「適用事業場」)
② 全国の裁量労働制が適用されていない事業場15,499ヶ所(以下、「非適用事業場」)
③ 適用事業場において裁量労働制が適用されている労働者104,985人(以下、「適用労働者」)
④ 非適用事業場において裁量労働制が適用される業務に相当する対象業務を担う労働者104,375人(以下、「非適用労働者」)

まず、1日の労働時間の平均について比較しつつ見てみましょう。

◆事業場

<裁量労働制の適用事業場>

・ 1ヶ月の労働時間の平均…171時間36分(1人あたり)
・ 1日の労働時間の平均…8時間44分(1人あたり)
・ 1ヶ月の労働日数の平均…19.64日(1人あたり)

<裁量労働制の非適用事業場>

・ 1ヶ月の労働時間の平均…169時間21分(1人あたり)
・ 1日の労働時間の平均…8時間25分(1人あたり)
・ 1ヶ月の労働日数の平均…20.12日(1人あたり)

非適用事業場のほうが適用事業場にくらべて労働時間が少ないものの、労働日数は若干上回っています。

◆労働者

<裁量労働制の適用労働者>

・ 1週間の労働時間数の平均…45時間18分
・ 1日の労働時間数の平均…9時間0分
・ 1週間の労働日数の平均…5.03日

<裁量労働制の非適用労働者>

・ 1週間の労働時間数の平均…43時間2分
・ 1日の労働時間数の平均…8時間39分
・ 1週間の労働日数の平均…4.97日

前述の事業場と同じような結果であるものの、非適用労働者は適用労働者にくらべて労働日数が若干下回るという逆の結果でした。

裁量労働制に対する意見

裁量労働制を適用している事業場の中にも、2種類の制度があります。

1つは、「専門型裁量労働制」。
法令で定められた業務の中から、さらに労使で決められた対象業務に、従業員を実際にその業務に従事させた場合に裁量労働の対象とする制度です(例:情報システムの分析や設計、新たなデザインの考案業務、コピーライターの業務、証券アナリストの業務、弁護士の業務、など19業務が対象)。
もう1つは、「企画業務型裁量労働制」。
事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて、企画、立案、調査および分析の業務を担う従業員を対象にした制度です。
専門型と違って具体的な業務の指定はありませんが、すべての業務があてはまるわけではありません。
上記2種類の対象企業・労働者において、それぞれ裁量労働制に対する意見の調査結果も出ています。

◆事業場

<専門型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場>

(1) 特に意見はない(39.5%)
(2) 今のままでよい(37.9%)
(3) 制度を見直すべき(15.8%)

<企画業務型裁量労働制の適用労働者がいる適用事業場>

(1) 制度を見直すべき(39.7%)
(2) 今のままでよい(33.9%)
(3) 特に意見はない(23.8%)

専門型では「特に意見はない」が最も多かったものの、企画業務型では「制度を見直すべき」が最も多いという逆の結果が出ました。
また、「制度を見直すべき」とした具体的な意見としては以下の通りです。(複数回答可)

・ 対象労働者の範囲を見直すべき…(専門62.2%/企画71.6%)
・ 手続負担を軽減すべき…(専門20.9%/企画76.5%)
・ 労働者の裁量が確保されるようにすべき…(専門13.7%/企画4.5%)
・ 制度の運用にあたって、本人同意や同意撤回の手続きを含め、労働者の意向がより尊重されるようにすべき…(専門5.6%/企画2.4%)
・ 健康・福祉確保措置を充実させるべき…(専門9.3%/企画3.3%)
・ 苦情処理措置を充実させるべき…(専門1.8%/企画0.2%)
・ 労使委員会の実効性を高めるべき…(専門0.3%/企画0.8%)
・ 行政による助言・指導の機能強化を図るべき…(専門3.5%/企画0.3%)
・ その他…(専門11.8%/企画4.3%)

専門型にくらべて、企画型は「手続き負担を軽減すべき」が飛び抜けて回答が多くありました。
前述で多く意見が上がった「制度を見直すべき」の中では、ほとんどが手続負担を感じていたことがわかります。

まとめ

その他にも、「裁量労働制の対象労働者の範囲が不明瞭」と回答した具体的意見として、専門型・企画型ともに「業務ではなく、一定の処遇・雇用管理等を要件とすべき」が最も多く、続いて「業務ではなく、一定の年収を要件とすべき」「業務ではなく、一定のコンピテンシー(業務遂行能力)を要件とすべき」などといった回答が伸びていました。
厚生労働省はこの結果を踏まえて、今後の裁量労働制のあり方について検討していくとのことです。
裁量労働制は他の制度と同じくメリット・デメリットがありますが、実態調査と改善検討を繰り返し、デメリットが少しでも小さくなっていくことを期待します。

<参考>
・厚生労働省「裁量労働制実態調査の結果を公表します」

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海南 一肇株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

他業界より転職し、今に至ります。激務をこなすことが当たり前になっている日本の風潮に、「働き方改革」はまだまだ発展途上だと感じておりました。
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