ゲートキーパーになろう!~自殺の危険を抱えた人々に私たちができること~ 

新型コロナウイルスへの対応に追われる日々のなかで、生きることに困難を感じている方もいらっしゃると思います。
中には、自殺する以外には解決策がないとお考えの方もいらっしゃるかも知れません。
このような困難を抱えている方々に対して、私たちが少しでもできることはないのでしょうか。
答えのひとつが「ゲートキーパー」です。
今回は、ゲートキーパーについてわかりやすく説明します。

自殺を考えている方の特徴

まずは自ら命を絶とうとしている方がどのような特徴があるのか解説します。

1. 心理状態

自殺を考えている方の心理状態は、以下の特徴があると考えられています。

絶望感「もうどうすることもできない」と絶望する気持ち
孤立感「誰も助けてくれない」、「自分はひとりきりだ」と孤独を感じる気持ち
悲嘆「悲しい」と思う気持ち
焦燥感「いますぐに何とかしないといけない」と焦る気持ち
衝動性切迫して、すぐさま自殺行動や危険行動をしかねない状態
強い苦痛感「苦しい」、「辛い」と思う気持ち
無価値感「生きる価値がない」、「生きる意味がない」、「自分なんかいない方いい」と自分に価値がないと感じる気持ち
怒り他者や社会に対して強いいきどおりを感じる気持ち
投影自分の感じている気持ちを、まるで相手が感じているかのように考える。相手は本人が悪いとは思っていないのにもかかわらず、「どうせ私が悪いって思っているんでしょ」と考えるなど
柔軟性がない考え方幅広い視点で考えられず、「自殺以外に解決法はない」、「問題は解決できない」などと考えること
否認現実のことを認めることができない状態
将来の希望がないという見通しのなさ「どんなことをしても何もかわらない」、「この辛さはいつまでも続く」と考えること
諦め「もうどうなってもかまわない」、「もうどうすることもできない」とあきらめてしまうこと
解離普段の意識状態ではなくなり、今ある現実と考えや気持ちに断絶が起きている状態。「何をしたのか覚えていない」、「周りの状態に対して現実感がない」など
両価性「生きたい」という気持ちと、「死ぬしかない」という気持ちをゆれうごく状態
自殺念慮「死にたい」、「この世からいなくなりたい」など自殺するしか解決する方法はないという考え

(内閣府,2013)

2. 自殺につながるサインや状況

「死にたい、死にたい」と口癖のように訴えたり、手紙や写真の整理をしたりなど、いくつかの特徴があると言われています。

このようなサインや状況をあなたの周囲で見かけた時、温かい声を掛けたいものです。ゲートキーパーは、そのような役割をする人なのです。

ゲートキーパー

「産業保健新聞」では以前にもゲートキーパーをご紹介しました。

1. ゲートキーパーとは

「ゲートキーパー」とは「悩んでいる人に気づき、声をかけ、話を聞いて、必要な支援につなげ、見守る人」(内閣府,2013, P6)です。
自殺対策におけるゲートキーパーの役割は「心理社会的問題や生活上の問題、健康上の問題を抱えている人や、自殺の危険を抱えた人々に気づき適切にかかわること」(内閣府,2013, P6)とされています。
政府はこのゲートキーパーを養成するためのテキストを作成し、市区町村などの自治体や民間団体などが研修を盛んに開催しており、研修をしっかり受ければ誰でもなることができます。

2. ゲートキーパーの心得

ゲートキーパーの心得として、以下が挙げられています(内閣府,2013)

・ 自ら相手とかかわるための心の準備をする
・ 温かみのある対応をする
・ 真剣に聴いているという姿勢を相手に伝える
・ 相手の話を聴く
・ ねぎらう
・ 心配していることを伝える
・ わかりやすく、かつゆっくりと話をする
・ 一緒に考えることが支援
・ 準備やスキルアップも大切
・ 自分が相談にのって困ったときのつなぎ先を知っておく
・ ゲートキーパー自身の健康管理、悩み相談も大切

<参照>
厚生労働省「誰でもゲートキーパー手帳」

3. ゲートキーパー研修の実際

数年前、私はゲートキーパーに関する研修に参加し、講義とロールプレイの2本立てでゲートキーパーの理論と実際を学びました。
以下に、主として学んだことを2点ご紹介します。

(1) なぜ自殺予防が大切なのか
この研修では以下の3点が挙げられていました(小高,2020)。

① 死ななくて良い命が助かること。死ぬ以外の方法もあることに気づいてもらえる
② 家族の生活崩壊を防ぐこと
③ 連鎖自殺を防ぐこと

(2) 「今死にたいと思っていますか?」と尋ねること
「こんなことを聞いてしまったら自殺への後押しになってしまうのではないか」と思ったのですが、講師によれば「自殺を考えているかについて質問したとしても、それがその人の自殺の後押しになってしまうことはない」(小高,2020)とのことでした。
むしろ、その方が自殺を考えているか(自殺念慮があるか)を確かめることが重要であるようです。
現在、YouTubeの厚生労働省チャンネルでは、ゲートキーパー研修の動画が公開されています。

<参照>
厚生労働省/MHLWchannel「こころのサインに気づいたら」

メンタルヘルス・ファーストエイド

ゲートキーパーは、メンタルヘルス・ファーストエイド(Mental Health First Aid)の考え方を基にしています。
メンタルヘルス・ファーストエイドは、「メンタルヘルス(心の健康)の問題を抱える人に対して、専門家による支援の前に提供する支援のこと」(キッチナー&ジョーム,メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパン編訳 2012,P10)を意味し、以下の5つの基本ステップがあります。

1) 自傷・他害のリスクをチェックしましょう(り:リスク評価)
2) 判断・批判せずに話を聞きましょう(は:はんだん、批評せずに話を聞く)
3) 安心と情報を与えましょう(あ:あんしん、情報を与える)
4) 適切な専門家のもとへ行くよう伝えましょう(さ:サポートを得るように勧める)
5) 自分で対応できる対処法(セルフ・ヘルプ)を勧めましょう(る:セルフヘルプ)
(内閣府,2013)

このような支援を身近にいる人たちが行うことで、悩んでいる人の孤立を防ぎ、安心してもらうことができるのです。
メンタルヘルス・ファーストエイドは、ゲートキーパーのほか身体疾患やアルコール依存、災害対応などの場面においても活用されています(厚生労働省,2016)。
さらには、大学生の心理的問題への活用方法としての研究も行われています(河合,2016)。
統計によると、2020年は新型コロナウイルスの第一波が収束した7月頃から自殺者数が増え始め、10月は2015年以降で最も多い人数となりました(厚生労働省,2020)。
また、毎年3月に自殺者数が最も多くなる(厚生労働省,2020)ことから、ゲートキーパーに少しでもご興味をお持ちになった方は、今から研修に参加したり、動画をご覧になり、あなたの近くにいる悩みを抱えている方に温かい言葉を掛けてみてはいかがでしょうか(厚生労働省,2020,P1)。

【産業保健新聞に掲載された記事】


【引用・参考資料】
・ 河合輝久「大学生は身近な友人の心理的問題にどのように対応するか—抑うつ症状に対する初期対応の生起過程モデルの生成—」(「教育心理学研究」2016年3月)
・ B・キッチナー (著)、A・ジョーム(著)、メンタルヘルス・ファーストエイドジャパン(翻訳)『専門家に相談する前のメンタルヘルス・ファーストエイド:こころの応急処置マニュアル』(創元社、2012年)
・ 小高 真美「自治体等における自殺予防ゲートキーパー研修の作り方」(一般社団法人日本臨床心理士会第7回自死予防研修会(2020年10月17日開催))
・ 厚生労働省/MHLWchannel「こころのサインに気づいたら」
・ 厚生労働省「誰でもゲートキーパー手帳」
・ 厚生労働省「警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等(PDF)」
・ 内閣府「ゲートキーパー養成研修用テキスト(第3版)」(2013年)
・ 政府広報オンライン「あなたもゲートキーパーに!大切な人の悩みに気づく、支える」

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中島 健太株式会社ドクタートラスト 公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー

投稿者プロフィール

約20年間事務職に従事した後、ドクタートラストに入社。主に官公庁でのストレスチェックの受託業務を担当しています。
ストレスチェックは2015年12月に開始された新しい制度ですが、働く方のメンタルヘルスの改善に大いに役立つ可能性を秘めていると感じています。
「産業保健新聞」では、心理学分野から皆さまのメンタルヘルスに役立つ話題や、ストレスチェックに関連した話題を多く取り上げたいと思います。
【保有資格】公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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