仕事を離れたときにふと思う「私が本当にやりたいこと」 ~キャリア・アンカーとは~

そろそろ夏本番ですね。
コロナ禍によって春に休業や在宅勤務でバタバタしていた頃からは、ずいぶん職場環境が変わった方も多いのではないでしょうか。
ところで、春に休業などで職場から離れていた方の中には、ふとご自身の今の仕事のあり方や今後の身の振り方など、「キャリア」について思いを巡らせていた方もいらっしゃったと思います。
これから夏休みを迎え、時間の取れる方も多いかと思いますので、今回はご自身の「キャリア」を考える上で役に立つヒントをお伝えしたいと思います。

「キャリア」とは

その前に、そもそも「キャリア」とはどのような意味なのでしょうか。
辞書には「経歴」「経験」(三省堂大辞林第三版)とあり、一般的には仕事上の経験や経歴を指すことが多いように思います。
一方、専門家の間では「キャリア」は多様な定義が行われておりますが、ここでは文部科学省が2004年に公表した報告書で使用された定義を紹介します。

個々人が生涯にわたって遂行する様々な立場や役割の連鎖及びその過程における自己と働くこととの関係付けや価値付けの累積
引用元:文部科学省「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書~児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てるために~」

……難しいですね。
ただ、ここで重要なことは、「個々人が」というところです。
つまり、「キャリア」の要点の一つは、社会や組織からの視点ではなく、あくまでも働く私たち個々人が「自立性、主体性の生かされる働き方、自己決定、自己選択のできる働き方」(渡辺,2007,p15)であるということなのです。
では、私たち一人ひとりが「キャリア」について主体性を発揮して自己選択をする際には、何を道標にしたらよいのでしょうか。
そこで役に立つのが、「キャリア・アンカー」という考え方です。

キャリア・アンカー

「キャリア・アンカー」とは、組織心理学者であるシャインが提唱した概念で、私たちがキャリアの選択を重ねるにつれて「自分が本当にやりたいことをよく考えるための拠り所、あるいは自分自身を発見する拠り所」(シャイン,2003,p23)となる自己イメージのことです。
なお、アンカー(錨)という言葉は、シャインが社会人に各人の職業上の個人史をインタビューした際、インタビューを受けた人たちが「自分に適していない仕事についたとき、自分にもっと適しているなにかに『引き戻されている』というイメージのことについて話していました。そこで、これを錨(いかり、アンカー)にたとえることにした」(シャイン,2003,p25)ということに由来しています。

キャリア・アンカーには以下の8種類があります。

種類説明
専門・職能的コンピタンス特定の仕事に対する才能と高い意欲を自覚し、そこに価値を置くアンカー
全般管理コンピタンス経営管理そのものに関心を持ち、責任ある地位で意思決定をすることに価値を置くアンカー
自律・独立どんな仕事でも、自分のやり方やペースで納得できるようにすることに価値を置くアンカー
保障・安定安全で確実と感じられ、将来を予測し、ゆったりと仕事をすることに価値を置くアンカー
起業家的創造性新しい事業を起こすことに価値を置くアンカー
奉仕・社会貢献奉仕したい、救いたいという欲求から、世の中をよくすることに価値を置くアンカー
純粋な挑戦何事にも、あるいは誰にでも打ち勝つことに価値を置くアンカー
生活様式個人のニーズ、家族のニーズ、キャリアのニーズをうまく統合させることに価値を置くアンカー

(住田・坂口・森岡・鈴木,2010)

私たちは、多かれ少なかれ上記8種類のいずれも持っていると考えられています。
シャインは、このキャリア・アンカーについて、以下のように説明しています。

どうしてもこれだけはあきらめたくないと思うきわだって重要な領域があります。
「キャリア・アンカー」は、その領域を示すラベルなのです。
ひとはその領域への関心をもとに基本となる自己イメージを確定していき、それがキャリアの全段階において最優先課題になっていきます。
(シャイン,2003,p26)

私たちが上記8種類のどの傾向が強いのかを調べる質問票(キャリア指向質問票)をシャインは開発し、著書「キャリア・アンカー」(シャイン,2003)に掲載していますので、興味のある方はぜひ試してみてください。

生涯キャリア発達

ここまでお読みになった方のなかには、「キャリア・アンカーのことは、だいたい分かった。だけど私はそろそろ役職定年だし、もういいんじゃないかな」と考える方もいらっしゃると思います。
この考えも、とても理解できます。
ただ、ご自身のキャリア・アンカーを理解することは、今後の職業人生やさらにはその先の人生を歩む上でプラスになりますし、これからの職業人生、しいては人生全般を生き生き・わくわくして過ごしていくことにも通じると思います。
これは、昨今広がっているワーク・エンゲイジメントにも通じています。

キャリアについては、「中年期以降から、企業主体ではなく自らが主体となって自分の人生やキャリアを設計する本当の意味での自律的な成長がはじまるのではないでしょうか」(阪井,2017,p9)との指摘もあります。
また、キャリア形成については、「キャリア形成の8割は『偶然』によってつくられている」という指摘もあります。

しかしながら、キャリアについては、年齢を問わず、私たち一人ひとりが主体的に考え、大まかでいいので計画を立て、それに向かって進むことが、今後ますます求められていると感じます。
今度の夏休み、ぜひ皆さんも「キャリア・アンカー」について考えてみませんか。

<引用・参考資料>
・ 文部科学省「キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書~児童生徒一人一人の勤労観,職業観を育てるために~」
 信州エクスターンシップ事務局「〔会員限定〕本気のインタビュー対応マニュアル 『本気のインタビュー』と『キャリアアンカー』の利用について」
・ 松村明(編)(2006).大辞林第三版 三省堂書店 Weblio辞書より引用(2020年6月15日付取得)
・ シャイン,E.H.(著)金井壽宏(訳)(2003).『キャリア・アンカー -自分のほんとうの価値を発見しよう-』白桃書房
・ 住田陽子・坂口桃子・森岡郁晴・鈴木幸子(2010).「看護師のキャリア・アンカー形成における傾向」日本看護研究学会雑誌,33(2),77-83.
・ 渡辺三枝子(編著)(2007).『新版 キャリアの心理学 キャリア支援への発達的アプローチ』ナカニシヤ出版

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中島 健太株式会社ドクタートラスト 公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー

投稿者プロフィール

約20年間事務職に従事した後、ドクタートラストに入社。主に官公庁でのストレスチェックの受託業務を担当しています。
ストレスチェックは2015年12月に開始された新しい制度ですが、働く方のメンタルヘルスの改善に大いに役立つ可能性を秘めていると感じています。
「産業保健新聞」では、心理学分野から皆さまのメンタルヘルスに役立つ話題や、ストレスチェックに関連した話題を多く取り上げたいと思います。
【保有資格】公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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