兼業者の労災認定はどうなる?複数事業場の労働時間を合算へ

2020年6月10日、厚生労働省で第1回「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」が行われました。
今回は、検討会の概要と今後の見通しなどをわかりやすく解説します。

「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」開催の経緯

「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」(以下、検討会といいます)の目的は、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準」(以下、認定基準といいます)の見直し、検討を行うことにあります。

認定基準は2001年12月に改定されたもので、労働者に発症した脳・心臓疾患を労災として認定する際の基準として定められています。
認定基準の改定からおよそ20年が経過し、この間に働き方、および職場環境には変化が生じてきました。

また、改正労働者災害補償保険法が今国会で成立し、兼業者の労災保険給付、すなわち労災認定は、複数の就業先における業務負荷を総合的に勘案することとなります。

今回の検討会では、こういった状況を踏まえて、以下の2点を検討していきます。

① 複数の就業先の負荷を総合的に評価する場合の留意点
② 脳・心臓疾患に関する最新の医学的知見などを踏まえた認定基準

「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」での主要論点

以下では、検討会での主要論点を説明します。

① 複数業務が要因の災害を現在の認定基準にもとづいて労災認定を行うか否か

現行の認定基準では、脳・心臓疾患の労災認定は次の3点が要件です。

(1) 発症直前から前日までの間に、異常な出来事(精神的負荷、身体的負荷、作業環境の変化)があったか
(2) 発症前おおむね1週間の短期間に、日常業務に比較して過重業務(過重な身体的な、精神的負荷を生じさせる仕事)があったか
(3) 発症前おおむね6ヶ月間に、長時間の過重業務があったか

複数業務が要因の場合でも「業務」を「複数業務」と読み替えたうえで、上記要件を適用し労災認定を行うかが、今後の論点です。

② 現行の認定基準を適用する場合、異なる事業場の負荷などを合わせて評価するか否か

前述のとおり、労災の認定要件としては
「異常な出来事」
「他機関の過重業務」
「長時間の過重業務(長時間労働)」
の3つがあります。

このうち「長時間の過重業務」は、複数の事業場での労働時間を通算し、週40時間を超える分を「時間外労働時間数」として業務の過重性を評価するか、また労働時間以外の負荷要因について異なる事業場の負荷を合わせて評価するかなどが今後の論点です。

複数業務要因の災害が、今後はどう変わっていくか

検討会では、複数業務要因災害として考えられる例が示されています。
A社で毎月60時間の時間外労働を行い、B社で週3日、夜に4時間仕事をしていた人が、1か月半後に脳出血を発症した場合です。
現行の労災認定方法では複数業務の労働時間は合算されず、あくまでB社での業務は「A社にとっては業務外」とみなされ、時間外労働は「60時間」になります。

しかし、複数の就業先における業務負荷を総合的に勘案することになると、A車での時間外労働60時間と、B車での勤務時間(1カ月当たり50時間)を合算することになり、発症前1ヶ月の時間外労働時間は110時間、すなわち複数業務要因災害として労災認定されます。

副業・兼業のみならず、昨今は在宅勤務やテレワークなども加速し、従来の通り一片な「働き方」の範ちゅうにおさまりきらないケースが増えてきました。
しかし実際の働き方に対して、制度面は後追いを続けている状況と言えます。
どのような働き方を選んでも「安心して働ける」ことが重要です。
今後の議論のゆくえも注視して見守っていきます。

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蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼、リリース送付などはこちらからお願いします】

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