気にかけてますか?新型コロナが海外赴任者のメンタルヘルスに及ぼす影響

気にかけてますか?新型コロナが海外赴任者のメンタルヘルスに及ぼす影響

 “海外赴任”はストレスがつきもの

「海外赴任」と聞くと、日本と異なる文化の中で、さまざまなしがらみから解放され優雅な生活をしながら仕事ができるというイメージを持つ方も少なくないでしょう。
しかし実際の海外生活は、言葉の壁・コミュニケーションのとりにくさはもちろんのこと、文化・価値観・考え方の違い、生活環境の変化・生活習慣の違いなどストレスの生じる要因が多種多様です。
加えて、日本の生活のようにストレスを発散させる方法(ストレス緩衝要因)が少ないことから、ストレスを溜めやすく、また強く感じやすくなり、メンタルヘルス不調につながりやすい環境なのです。
新型コロナウイルス感染症の感染が猛威を振るっているなかで(本稿執筆時点で全世界感染者数638万人超)、慣れない海外生活の中、自粛生活を強いられている方もいらっしゃいます。
自粛生活だけでも大きなストレス要因となりますが、加えて以下のストレス要因も考えられます。

◎ 入国規制のため、再度入国できる目途が立たないため日本へ一時帰国したくてもできない(現在の入国制限の状況:外務省海外安全ホームページ
◎ いつになったら日本に帰れるかわからない状況
◎ 単身で海外赴任をし、長引く家族と離れ離れで、先行きの見えない生活に不安
◎ 赴任先の医療は適切に受けられるのか、新型コロナウイルス感染症に感染したらどうしようか
◎ 日本のような医療体制が整っていないことで強い不安を感じている
◎ 新型コロナウイルス感染症による日本人への差別

いつもとは違う生活環境の中、自分たちの健康な心と体を保ちつつ明るく前向きに過ごすのは簡単なことはありません。
コロナ禍では、日本国内の働く人々だけでなく、海外赴任者にとってもかなりストレスに感じている状況に対して、企業としてサポートをする必要があります。
今回は、海外赴任者に対して企業が行いたいメンタルヘルスケアをわかりやすく説明します。

テレビ電話などを通じて定期的な赴任者への連絡

冒頭でも述べたように、海外での生活におけるストレス要因は多種多様であり、根源的に要因をなくすことは難しいのが事実です。
そのため、周囲からのサポートを増やし、ストレス緩衝要因を増やすことが大きなポイントとなります。
在宅勤務者へのメンタルケアの一つとして「普段以上のコミュニケーション」を大切にすることは大事です。

この「普段以上のコミュニケーション」は、「在宅勤務者」に対してだけでなく、海外赴任者に対しても重要なポイントです。
特に海外生活では、コミュニケーションの壁を感じ、「伝えたいことを伝えられない」という思いになりやすく、さらには時差やネット環境の原因で「日本の家族や友達とうまく連絡が取れない」など孤立感を感じやすくなります。
日頃の連絡で、業務の開始や終了の連絡を求めるだけでなく、進捗状況の確認や途中で困っていることがないか等の確認を音声通話やビデオ通話にて意識的に行うようにしましょう。
また、社内に産業保健スタッフがいる場合には、相談しやすいしくみをつくることも必要です。

ストレスへの気づきとセルフケア

将来の不確実性や「先行きがわからない」という思いが不安の元になると言われています。
そのため、まずは自分が何にストレスに感じているか、何に不安を感じているかに気づくこと、明らかにすることは、先行きがあいまいなこんな時だからこそ大切です。
新型コロナウイルス禍では以下のような心の変化が訪れやすくなります。

・ 人との接触を避けることによる孤立感
・ 感染するのではないかという不安感
・ 外出自粛による逃げ場の喪失感
・ 景気が悪化することでの将来への不透明感、無力感

そのような中、異変に気づくポイントは「今までと違うな?」感じることです。
次に大切なことは “原因を知る”ということ。
「ストレス」とひとくちに言っても、状況や立場、また性格によってストレスと感じる要因は人それぞれです。
敵を知らなければ、戦うことはできません。
「自分にとっての敵(ストレス)」を知ることが、次なる「対処」に有効です。
ストレスへ対処する際には、「自分で解決できること」と「自分で解決できないこと」に区別し、「自分で解決できること」には、周りの協力を得ながら問題を解決すること、「自分で解決できないこと」は見方や発想を変えてみたり、日ごろからリラクセーション、ストレッチ、適度な運動、睡眠、そして自分が「気持ちいい」、「楽しい」と思えることをたくさん実践していくことが大切です。
企業側は、海外赴任者がメンタルヘルス不調をひとりで抱え込まないように、上記を赴任前もしくは赴任中にセルフケア教育の一環として伝えていきましょう。

現地の相談窓口紹介などの情報発信を行う

国内と海外では、メンタルヘルス対策の特徴が大きく異なります。
海外は、日本国内とくらべ、情報量が少なくうつ病や適応障害を外国人医師に診てもらうことはとても大変なことです。
「自分の気持ちを母国語でないと表現できないから」と自分のストレスや異常に気づいてもSOSを出すのが遅れてしまう場合があります。
そうなるとメンタルヘルス不調を放置し、気づいたときには後戻りできない状態……そんなことも考えられます。
企業としては、”不調が起きてからの対応”ではなく、人事や現地法人との連携、情報共有を行い、相談ネットワークの情報提供を行い、安心して自分の状態の異常を誰かに伝えられるしくみを作ってあげることが必要不可欠です。
緊急事態宣言が解除され、在宅ワークから出勤へ移行した企業や、業務を再開した業種もあるかと思います。
しかし一方で、水際対策として日本国内の入国制限は続いている状況です。
今は、第二波・第三波に備えながら、新型コロナウイルスにより様々なところで影響を取り戻す時期ですが、世界の新型コロナウイルスの終息を願いながら、引き続き海外へ赴任した社員へのメンタルケアに努めていただきたく思います。

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原田 佑紀子株式会社ドクタートラスト 保健師

投稿者プロフィール

大学病院やクリニックで看護師として、さまざまな疾患をもつ働き盛りの年代の患者様を間近で看護させていただくなかで、からだとこころは密接に関係している、と強く実感しました。
「病気」に目を向けるだけではなく、病気になることで揺れ動くこころや生活を支え、健康に働くことをサポートする役割になりたいという思いから、産業保健師として活動しています。皆さんの「知りたい」最新の産業保健の情報を伝えられたらと思います!
【保有資格】看護師、保健師、人間ドック健診情報管理指導士、睡眠健康指導士上級
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