SNSのいいね!から考える「承認欲求」~現代の若者の心理~

米Facebook傘下のInstagramは、2019年7月18日に「いいね!」を非表示にする措置を、日本などの一部ユーザーを対象に試験的に開始したことを発表しました。
これは自分の「いいね!」の数は確認できるが、他ユーザーの「いいね!」の数は非表示になるというもので、ユーザーの精神に及ぼす影響への対応策だそうです。

・ 「いいね!」が欲しい気持ちがエスカレートしてしまう
・ 過剰に他人の「いいね!」数が気になり言動が制御できなくなる

こういった事態が、世界的に見ても無視できないところまできているということなのでしょう。
この「いいね!」は、人間が本来持っている「承認欲求」と深く関係しており、今回はそこから現代の若者の心理を考えてみます。

承認欲求とは

アメリカの心理学者 アブラハム・マズローの「欲求5段階説」はあまりに有名です。
その「欲求5段階説」で低次欲求の下から4番目に位置付けられた欲求が「承認欲求」です。

この承認欲求は以下の2つに分かれます。

① 他者による評価に対する欲求
② 自分による自己承認欲求

①は、他者からの評判、評価に基づく地位、承認などであり、②は自身の能力への自信や達成など、自尊心ともいえる欲求です。
①も②も人間が本来持っている「承認欲求」であり、どちらが良い悪いということではありません。

承認欲求が【他者視点】と【自己視点】の2つから成り立っているというところが重要で、現在SNSの「いいね!」で問題視されているのは【他者視点】、つまり「他人からの承認」欲求に偏重し、過剰化しているという点です。

承認の見える化「いいね!」に慣れた若者と職場

どこか行くにも、何か食べるにも、「映え」を意識してしまう。
顔が見えないけれども、いいねやリツイートという「数」で、承認が見える化されている時代。
そんな時代を当たり前のように生きてきている若者にとっては「他人承認主義」というのはもはや当たり前で、それ以外の承認基準を持つということをあまり考えないのかもしれません。
しかしながら、最近さまざまな取り組みがされているとはいえ、職場ではまだまだ「承認」が見える化されているとは言い難く、またネット上のように、趣味や好みが一緒の「仲間」で構成されているわけではありません。
そうなるとますます「承認」は難しいものにはなります。
分かりやすい「承認」に慣れた若者が、「承認」が見える化されていない職場で不安を抱え、居場所を感じられず、自分が認められる会社を求めて転職し、新たな人間関係において承認欲求を満たそうとするのは、今の時代では自然な流れなのかもしれません。

他人基準の問題点は「不安定さ」

このように、一方で自由と多様性を追い求めながらも、他人・周囲からの承認という呪縛で雁字搦めになっているのが今の社会です。
他人承認の基準は、明確ではなく、全面的に他者に依存することになります。
その承認基準は流動的で、バズるかどうかが本人の意図とは別のところにある結果です。
それゆえに、他人承認に偏重することは、精神的不安定をもたらすことになるのです。
今回のInstagramの「いいね!」非表示の試験は、他人からの承認度合いを数値で競うストレスの緩和に一定の効果は期待されるものの、あくまで「いいね!」は他人承認。
そして、「いいね!」の公開数をもって、自身の居場所や価値を感じてきた人には、非表示自体が大きなストレスや自己存在の揺らぎに繋がる可能性もあります。
どれくらいのいいね!をもって良しとするかも含めて、きちんと自分基準をもち、自己承認のスキルを高めていくこと。
他者承認と自己承認のバランスをとっていくこと。
これが今後、ますます社会的に求められる「生きる力」となるでしょう。

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山口紗英株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士

投稿者プロフィール

メンタルクリニックでのカウンセリング従事の後、「働く人」を理解すべく一般企業にて勤務。その後ドクタートラストに入社。
自然成長は望めない時代だからこそ、「個」と「組織」の両面に、健康という手段をもってアプローチすること大切だと思っています。知識ではなく、明日から職場で使える「スキル」を発信し、働くことが楽しいと思える社会の構築を各現場から作っていけたらと思います。
【保有資格】精神保健福祉、産業カウンセラー、第二種衛生管理者、健康経営アドバイザー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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