事業所規模が小さいほど、高まる健康リスク

「従業員数が50名いないので、産業医は必要ない」
「ストレスチェック実施義務はないんです」
こういった声はよく聞きます。

確かに、産業医の選任やストレスチェックの実施の義務だけに限って言えば、50名以上の事業場に課される義務のため、50名を下回る場合の法的責任は問われません。
しかし、本当に法的基準だけで事業場の産業保健体制を判断して良いのでしょうか。
日本にある企業の実に99.7%は中小企業で、いわゆる大企業は0.3%に過ぎません。
全体の約9割は20人未満の企業というのが日本の社会の実情です。(平成26年経済センサスー基礎調査)
働く人の健康を守るための法とはいえ、法令だけを判断基準にしていると、ほとんどの労働者の労働衛生水準は保たれず、かつ向上も見込めないことになります。

事業規模が小さいほど働く労働者の健康水準は低い

中小や小規模事業場の労働衛生管理体制の貧弱さは、多くの課題を抱えていることが長年指摘されているところです。
実際に企業規模で見た際、規模が小さくなるにつれ、一般的に下記の傾向が見られます。

●健康診断の実施率が低い
●健康診断で異常が発見されるケース(有所見率)が高い
●生活習慣病に対する医療費が高い
●労働災害や職業病の発生が多い
●退職者比率と休職者比率の合計値が高い
●メンタルヘルスを起因とする1ヶ月以上の休職率が高い
●休職後の復帰成功率が低い

ではなぜ、上記のような傾向が見られるのでしょうか。
理由としては、資金的・人的・物的資源の不足が挙げられるでしょう。
もともと大企業にくらべ、経営基盤の脆弱性は否めず、産業保健体制にお金をかけることが難しいのが現実です。
そうなると、産業医等の産業保健に関する専門的知識を有する人材が確保されていないことが多く、つまりは安全衛生に関する情報提供自体が不足することとなります。
実際に、事業者だけではなく労働者も含め、産業保健に対する意識が低い傾向になりがちです。
そしてそういった体制や知識不足・意識の低下だけではなく、事業場規模が小さい程、「労働者の高齢化」や「プライバシー保護の困難さ(面談室の有無)、何かあった際の配置転換対応の困難さなど、事業場を取り巻く環境によっても心身に影響が出やすいものと推測されます。
特にメンタルヘルスの面では、人数が少ないが故に人間関係を良好に保つことがより困難であり、距離を置くという選択肢ももてないことも要因として挙げられるでしょう。

このような状態を見ると、選任義務や実施義務という観点のみで、事業場の産業保健体制を決めることがいかにハイリスクかが分かるかと思います。

安全配慮義務は常に負っている

派遣社員等も含め、1名でも従業員がいれば、企業には安全配慮義務があります。
昨今のメンタルを含む労災裁判においては、この「安全配慮義務」を果たしていたかどうかが争点となることがほとんどです。
健康面について抱えるリスクが大きい事業場ほど、労災や損害賠償請求を負うリスクも高いと捉えることができると思います。
産業医の選任義務のない事業場でも、当然のごとく安全配慮義務は事業側に課せられていますし、かつ下記のような事項も義務づけられています。

・健診で異常所見のあった労働者には3か月以内に医師(産業医)から意見聴取を受けなければならない
・長時間労働者への面接指導(時間外、休日労働が1か月あたり100時間を超える長時間労働者より申し出があれば面接指導をうけさせなければならない)
・衛生推進者の選任

健康診断を受けさせ結果を通知するだけではなく、その後の事後措置まで企業には義務づけられているのです。
また規模が小さくなるほど、長時間労働者への面接指導の実施率が低下する傾向もありますが、これについても産業医を選任していなくても、要件を満たした場合には産業医面談を実施する義務があります。
しかし、実際のところここまで対応できている事業場はどれほどあるでしょうか。

法令順守は最低ライン。企業成長はそこを超えた先にある

危険物や有害物質による生命や身体による健康リスクはもちろん、メンタル対策や過重労働対策を含めて心身の健康を損なわないようにすることが、安全配慮義務を負うすべての企業に求められていることです。
企業リスクの観点ももちろんですが、代わりのきかない少数精鋭で仕事をしている小規模事業場こそ、従業員の心身の健康を保つことは大切です。
働き手が減少していっている今の日本社会で、潜在的な健康リスクを最小限にし、また問題を出さないような体制の構築は健康経営による企業成長への投資と捉えることができます。
事業場規模に囚われず、まずは事業場の実態や今後の成長を見据えた上での健康管理体制を是非築いていっていただきたいと思います。

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山口紗英株式会社ドクタートラスト 精神保健福祉士

投稿者プロフィール

メンタルクリニックでのカウンセリング従事の後、「働く人」を理解すべく一般企業にて勤務。その後ドクタートラストに入社。
自然成長は望めない時代だからこそ、「個」と「組織」の両面に、健康という手段をもってアプローチすること大切だと思っています。知識ではなく、明日から職場で使える「スキル」を発信し、働くことが楽しいと思える社会の構築を各現場から作っていけたらと思います。
【保有資格】精神保健福祉、産業カウンセラー、第二種衛生管理者、健康経営アドバイザー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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