「異常」と「不適応」は成り立ちも考え方も実はまったく異なる

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こんにちは、産業カウンセラーの田野です。
職場や組織の中で生活をしていると、どうしてもさまざまな方人とコミュニケーションを取らなくてはいけません。
その中で、この人は変わっているな、少し普通とは違う(異常)なと感じることはありませか?
普通とは違うことを「異常・不適応」だともいいます。
似たような雰囲気で使われていますが、この「異常」と「不適応」は、ニュアンスの異なる言葉です。

正常・異常 or 適応・不適応

正常と異常

異常と不適応は、ともに標準からの逸脱や病的な状態を意味する用語ですが、言葉の持つニュアンスは互いに異なっています。
正常と異常は主としてドイツ語圏で用いられてきた言葉で、そこでは性格や精神障害の主たる要因は、生得的・遺伝的であるとする考えが主流でした。
それゆえ標準から逸脱した病的な行動をとる人間は、正常な人間とは質的に異なると考えられていました。
正常と異常は、人間の異なる2つのカテゴリーであり、質的に非連続であるとされています。
異常とされた人は正常ではなく、正常な人は異常ではない。
また、異常か正常かを判別するうえでは権威的な人が必要です。
この権威的な人は自分を正常とします。
このように、異常・正常概念は、それを判別する人の中にある基準ともいえるのです。

適応と不適応

これに対し、適応と不適応は、主としてアメリカで用いられていた言葉で、その背景には、過去から現在に至るまでの環境的な要因によって、人はつくられるという考えがあります。
適応・不適応は、また、その時のその人とその人をとりまく環境との関係によって強く影響されるのであって、適応・不適応には本質的な違いはなく、連続的であり程度の問題だとされるのです。

精神医学的な考え

精神医学的にはどのように考えられているのかというと、病的状態に関する診断は、時代によって変化しています。
たとえばアメリカにおいて、1980年以前は、同性愛は病的であり治療の対象とされていました。
しかしながら、精神障害の診断基準であるDSMーⅢ(アメリカ精神医学会(1980)『精神疾患の診断と統計のためのマニュアル』第3版)以降では、同性愛は単なる好みや個性の問題であり、異常でも不適応的でもないとされて現在に至っています。
では、実際にはどのような基準を用いて異常や不適応を判別するのかというと、そこには次の3つの基準があります。

・ 統計的基準

健康診断などにおいて、血液や尿の生理学的検査では、ある一定の範囲の値を正常とし、それより高い数値と低い数値は異常とされています。
平均値を中心として一定の幅の中にいるものは正常とし、それ以上に偏ったものは異常とします。
この基準は、数値という明確で比較しやすいものを用いるために客観性はありますが、 判別の数値をどこにするかという根本的な問題があります。

・ 価値的基準

統計的基準を用いたIQ(知能指数)の判別では、100が平均であり、70未満を知的障害として何らかの特別な処遇が必要としています。
しかしながら、では70と69 との間には実際大きな知能の違いがあるかといえば、そんなことはないのであって、線引きが意図的にされているだけにとどまりません。
また130以上を異常とするかという問題もあり、そこには、低いことは問題だが、高いことは望ましいとする価値判断が存在していることになります。
すでに述べた同性愛についての判断も、このような価値的基準に影響されています。

・ 病理的基準

精神障害のいくつかは、典型的な症状を示すために、臨床経験を積むにしたがって判別が可能にもなります。
すでに述べた DSM は、その診断をマニュアル化したものであり、たとえば DSM-IV(1994)では、統合失調症を、妄想、幻覚、解体した会話、ひどく解体したまたは緊張病性の行動、陰性症状(感情の平板化、思考の貧困、または意欲の欠如)をあげ、このうち2つが1か月以上存在していることを診断基準のひとつとしています。
しかしながら、何を病理とするかは、価値的基準に大きく影響されるため、DSM においても常に大きな議論があり、改訂される度に内容が変化しているのが現実です。
私たちが正常・異常、適応・不適応という言葉を用いる場合、そ れぞれの用語を正確に定義することはきわめて困難であり、その判別も明確ではないことを理解する必要があります。

区別、判別は難しい

私たちが普段用いている正常・異常、適応・不適応、精神的に健康・不健康といった言葉は、区別が明確ではなく判別が困難です。
またある特定の障害がある人でも、健康で適応的な側面を持っていることもあり、それが個性とも言える時があります。
個人だけの問題ではなく、周囲の他社のサポートがあるか否かといった社会的・環境的な側面を持っていることも忘れてはならず、私たちが他社と関わる際も当然この社会的・環境的な側面が含まれていることが大切でしょう。

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田野優人

田野優人株式会社ドクタートラスト 産業カウンセラー

投稿者プロフィール

日本の働き方、メンタルヘルスのあり方に不信感を抱き、大学では社会学を専攻。卒業後、健康経営のコンサルタントの道を進むべくドクタートラストへ入社。今まで延べ500社以上の企業へ訪問し、産業保健体制の実態を目の当たりにしてきました。また、産業カウンセラーとしても日々、悩みを抱える方々との面談を行っています。
【保有資格】産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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