
寒い日が続くなか、太陽の出ている時間も短くなり、うつうつとしていませんか?
もし少しでも気が滅入っている自覚があるのであれば、試してほしいことがあります。
それは「コラム法」です。
「コラム法」とは
コラム法とは認知行動療法のひとつの技法で、主にうつ病の方への治療法として活用されています。
この認知行動療法は、その治療効果や再発予防を裏づける根拠(「エビデンス」といいます)が多数報告されていることから、欧米を中心に広く世界的に使用されるようになっています。
また、コラム法の良いところは、日常のストレス対処、すなわち、自分自身の心のケア(セルフケア)にも役に立つといわれていることです(慶應義塾大学認知行動療法研究会、2009a)。
筆者自身も何度も試していますが、その効果を実感しています。
今回は、セルフケアのひとつの方法として、このコラム法をご紹介するのですが、その前に、認知行動療法の鍵となる「認知」についてご説明します。
認知の歪み
私たちの多くは、考え方にクセがあるものです。
とくに多くのストレスを抱えているときは、このクセが強く出る傾向があります。
このことを、認知行動療法では「認知の歪み」と呼び、この「認知の歪み」に本人が気づき、より柔軟な考えに変わることを治療の目的としています。
この「認知の歪み」については、この産業保健新聞でも何回か取り上げていますが、改めて整理して紹介します。
NO | 種類 | 内容 |
1 | 全か無か思考 | いわゆるオール・オア・ナッシングの考え方。勝つか負けるか、など、中間の考えを持たない考え方 |
2 | 一般化のしすぎ | 良くないことがひとつあると、ずっとこのままこうなる、などと考えること |
3 | 心のフィルター | ひとつの悪いことばかりずっと考え、他のことが見えなくなること |
4 | マイナス化思考 | よい出来事や普通の出来事までも全てマイナスに考えてしまうこと |
5-a | 結論の飛躍(心の読み過ぎ) | 他人があなたを悪く思ったり、いじわるをしているなどあなたに対して悪い行動をしているなどと決めつけること |
5-b | 結論の飛躍(先読みの誤り) | 良い予想もできるはずなのに、なぜか悪い予想を必ずしてしまうこと |
6 | 拡大解釈(破滅化)と過小評価 | あなたにとって良くないことを過大に考え、良いことや長所を取るに足らないことだと思うこと |
7 | 感情的決めつけ | 自分の感じていることが事実であると思い込むこと |
8 | すべき思考 | 「……すべき」「……すべきでない」と考えること |
9 | レッテル貼り | 根拠もなく決めつけること |
10 | 個人化 | 良くないことが起こった時、その原因が自分ではなくても自分のせいだと思うこと |
※(バーンズ・野村他訳、1990)。ただし、「内容」欄は上記資料を基に筆者が作成
コラム法の実際
コラム法は、このような表(コラム表)に記入しながら進めます(慶應義塾大学認知行動療法研究会,2009b)
① 状況:
最近、つらい気持ちになったときの具体的な出来事を書きます。
その際、できるだけ具体的に、5W1H(誰と、どこで、なにを、なぜ、どのように)を意識して書くとよいでしょう。
② 気分:
その時の気分・感情を書きます。
また、その気分・感情の強さを0%(まったく感じない)~100%(最大)で記入します。
例えば、不安80%、怒り90%などです。
③ 自動思考:
その時に頭に浮かんだことや心配したことを書きます。
2つ以上書いた場合、その時の気分を最も表すものに「○」をつけます。これを「ホットな思考」と言います。
上記①~③の例:
×月×日午後8時、上司が一般職の女性を連れ食事へ行き、自分は残業をしていた際にイライラや悲しさを感じた場合
① 状況 :
会社で私を残して事務職のみんなが上司と食事会に行った
② 気分 :
イライラ(70%)、あせり(65%)、悲しい(80%)
③ 自動思考 (ホットな思考に○をつける/確信度%):
○自分は嫌われている。(80%)
仲間はずれにされている。(80%)
自分は仕事が遅いだめな人間だ。(70%)
認知行動療法では、「気分」が「思考」を決定するのではなく、「思考(認知)」が「気分」を決定すると考えます。
上記の例では、イライラ・あせり・悲しい という気分が「自分は嫌われている」「仲間はずれにされている」「自分は仕事が遅いだめな人間だ」と感じさせているのではなく、「自分は嫌われている」「仲間はずれにされている」「自分は仕事が遅いだめな人間だ」という思考が、イライラ・あせり・悲しいという気分を引き起こしているととらえるようにしなくてはなりません。
よって、認知行動療法では、より柔軟なバランスのとれた考えを持てるようになれば、気分も良くなると考えます。続けて見てみましょう。
④ 根拠:
上記③の根拠となる事実のみを書きます。
先ほどの例では「食事会に行けず、残業していた」「仕事が進んでいない」など。
⑤ 反証:
上記④に自分で反論を試みます。
同様に先ほどの例では「他の事務職の同僚も何人か残業していた」「確かに仕事は締めきりもあり忙しかった」などが挙がります。
⑥ 適応思考:
上記④と⑤を見比べたり、上記「認知の歪み」に陥っていないかを振り返ったりしながら書き込みます。
また、以下のように視点を変えて考えながら書き込みます。
・「○○さんだったらどう考えるだろう」
・「私がもっと元気な時だったら、違う見方をしないだろうか?」
・「自分ではどうしようもない事で自分を責めていないだろうか?」
・「自分は、結局、どんなことを心配しているのだろう?」
先ほどの例では「仕事は締切もあり忙しかったので、私に気を遣ったのではないか」「信頼されているからこそ仕事が多いのだ」が思いつきました。
⑦ 今の気分:
上記②の気分がどのように変化したのかを書きます。
なお、気分は改善しなくても、これからの対応策や行動プランを思いつければOKです。
では完成した表を見直してみましょう。
① 状況 :
会社で私を残して事務職のみんなが上司と食事会に行った
② 気分:
イライラ(70%)、あせり(65%)、悲しい(80%)
③ 自動思考 (ホットな思考に○をつける/確信度%):
○自分は嫌われている。(80%)
仲間はずれにされている。(80%)
自分は仕事が遅いだめな人間だ。(70%)
④ 根拠 :
食事会に行けず、残業していた
仕事が進んでいない
⑤ 反証:
他の事務職の同僚も何人か残業していた
確かに仕事は締切もあり忙しかった
⑥ 適応思考(確信度%):
仕事は締切もあり忙しかったので、私に気を 遣ったのではないか(50%)
信頼されているからこそ仕事が多いのだ(65%)
⑦ 今の気分 :
イライラ(40%)、あせり(30%)、悲しい(25%)、やる気(20%)
※上記①~⑦の説明は厚生労働省ホームページに掲載されている慶應義塾大学認知行動療法研究会(2009c)を基に作成しました。
試してみよう!
最初は時間がかかるかも知れませんが、慣れれば10分程度で記入できます。
記入することで、気分がよくなったり、自分の考えが整理できたりします。
このコラム法は、認知行動療法に関するたくさんの本で紹介されていますので、興味のある方は図書館や本屋さんで探してみてください。
また、一度試してみて、もしうまくいかないようであれば、専門家に相談しながら進めてみてください
※産業保健新聞に掲載された「認知の歪み」の記事一覧
認知行動療法 認知の歪み10パターン①~②
認知行動療法 認知の歪み10パターン③~④
認知行動療法 認知の歪み10パターン⑤
認知行動療法 認知の歪み10パターン⑥
認知行動療法 認知の歪み10パターン⑦~⑧
認知行動療法 認知の歪み10パターン⑨~⑩
【引用資料】
慶應義塾大学認知行動療法研究会(編)(2009a).うつ病の認知療法・認知行動療法治療者用マニュアル
慶應義塾大学認知行動療法研究会(編)(2009b).自動思考記録表(コラム表) -記入用- うつ病の認知療法・認知行動療法マニュアル
慶應義塾大学認知行動療法研究会(編)(2009c).うつ病の認知療法・認知行動療法(患者さんのための資料)
デビッド・D・バーンズ著、野村総一郎他訳『いやな気分よ、さようなら〈増補改訂 第2版〉』(星和書店)