中学生で検査も? 広まるピロリ除菌

ピロリ菌は胃がんの原因に

胃がんのリスクファクターのひとつにピロリ菌があります。
現在ではピロリ除菌の保険適用の幅が広がったこともあり、「ピロリ菌=胃がん」と多くの人に認知されるようになってきました。
ピロリ菌の感染経路ははっきりと明らかにはなっていないものの、衛生環境が大きく関わっていることがわかっています。
現在の10代の子供達の感染率は10%を切っていますが、年齢が上がるに従って感染率が上昇し、60代以上では60〜70%が感染しているといわれています。
また、感染する時期もほとんど決まっていて、概ね2〜5歳頃の幼少期に感染するため、大人になってからピロリ菌に感染することは稀です。

ピロリ菌は経口感染するため、衛生環境が整ってから生まれた世代であっても、たとえば感染した親・祖父母から離乳食などを口移しされていた場合にも感染することがあります。

そこで、ここ数年増えているのが自治体による中学生や高校生でのピロリ菌検査で、早い段階でピロリ菌感染を知り、除菌することで将来の胃がん発生率を減らそうという試みです。
今回はピロリ除菌の必要性やメリット、デメリットなどについてご紹介します。

ピロリ菌は薬で除菌できる

ピロリ菌は細菌なので、抗生物質の内服で退治できることがわかっています。
7日間同じ薬を飲み続けることで、約70〜80%の人で除菌することができますが、除菌がうまくいかないこともあります。
その場合は抗生物質の種類を変えてもう一度チャレンジすることができ、2回目の除菌を行うことで90%以上の方で除菌することができます。

ピロリ除菌は必要?

「ピロリ菌=胃がん」という知識は一般的に広まっていますが、ピロリ菌は胃がんだけでなく他の病気にも関与することがわかっていて、胃がん・胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍の他にも、一部のリンパ腫や特発性血小板減少性紫斑病、小児の鉄欠乏性貧血などの原因の一つになることがあります。

肝心の胃がんの抑制効果に関しては、実はピロリ菌を除菌したからといってすべての人が胃がんにならないという訳ではありません。
というのは、若い年齢で除菌した場合と高齢になってから除菌した場合では、その後に期待できる効果が変わってきてしまうからです。

何十年もピロリ菌が住み着いていた胃は少なからずピロリ菌によるダメージを受けてしまっているので、除菌をしてピロリ菌がいなくなったからといって、元のピロリ菌のいない綺麗な胃の状態に戻るわけではないのです。ピロリ菌を除菌することで、これ以上悪さをしないようにすることはできますが、すでにダメージを受けてしまった胃の粘膜は元の状態には戻りません。
ピロリ除菌のための抗生物質は飲む量が多く副作用が出ることもあるので、除菌する人の年齢によってはピロリ菌が見つかったとしても除菌をせず様子を見ていくケースもあります。

しかし、まだまだ若い働く世代や若年層では、仮にピロリ菌がいたとしてもそれほど胃がダメージを受けていないことが多く、その後の人生の長さを考えても除菌するメリットが大きくなります。

また、胃潰瘍を繰り返している場合などには、ピロリ菌を除菌することで胃潰瘍を予防できることがあるため、例え高齢であっても除菌のメリットが勝るケースもあります。

除菌が自費になることも

このように、ピロリ除菌が100%胃がんの予防につながる訳ではありませんが、なるべく若い段階でピロリ菌の有無を知ること、そして除菌する場合はなるべく若いうちに除菌することが大切になります。
そういった観点では、中学や高校など若い時期にピロリ菌の検査をするというのは意味のあることだと思います。
ただ、ピロリ菌がいるだけでは除菌は健康保険の適応にならず、自費での除菌となります。
健康保険の適用となるのは「胃炎」が確認された状態なので、一般的には胃カメラを受けて「胃炎」の有無を確認してから除菌という流れになっています。

今、若い世代でピロリ菌を保有している人はかなり少なくなっていますが、特に親や同居の祖父母などがピロリ菌を保有している場合は一度検査されることをお勧めします。
いつかピロリ菌がいなくなり、胃がんの発生がぐっと少なくなる時代が来てほしいものです。

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田中 祥子株式会社ドクタートラスト 産業保健部 保健師

投稿者プロフィール

企業の健康管理室で働いていた経験をさまざまなかたちで皆さまにお届けします。
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