今後のキーポイントは「衛生委員会」~産業保健機能の強化に向けて~

「働き方改革実行計画を踏まえた今後の産業医・産業保健機能の強化について」公表

2017年6月6日、厚生労働大臣の諮問機関である労働政策審議会から、「働き方改革実行計画を踏まえた今後の産業医・産業保健機能の強化について」(以下、「建議」といいます)が公表されました。
建議は、3月に公表された「働き方改革実行計画」のうち、「労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化」を受けてのものです。
建議はあくまで提案に過ぎませんが、産業保健体制の針路を知るという点では参考になると考えられますので、今回は「事業者」に関わる箇所を中心にご紹介します。

建議における提案内容

建議において提案されているのは大きくわけて次の2つです。

  1. 事業者における労働者の健康確保対策の強化
  2. 産業医がより一層効果的な活動を行いやすい環境の整備

事業者における労働者の健康確保対策の強化

【対策の方向性】

長時間労働者等への就業上の措置に対して産業医がより的確に関与するための方策
  • 就業上の措置の内容を産業医が適切に把握する
  • 産業医から労働者の健康管理等について勧告を受けた場合、その内容を衛生委員会に報告し、産業医の勧告が実質的に尊重されるようにしていく
健康情報の事業場内での取扱ルールの明確化、適正化の推進
  • 雇用管理に必要な健康情報の範囲は、労働者の業務内容によって異なるため、具体的な取扱いについて衛生委員会等を活用して、労使の関与のもと検討する
労働者が産業医・産業保健スタッフに直接健康相談ができる環境整備等
  • 労働者が安心して健康相談を受けられる体制の整備に努めること
  • 産業医等への健康相談の利用方法、産業医の役割、事業場における健康情報の取扱方法について労働者に周知する

産業医がより一層効果的な活動を行いやすい環境の整備

【対策の方向性】

産業医の独立性、中立性を強化するための方策
  • 産業医の身分の安定性を担保し、職務遂行の独立性・中立性を高める観点から、産業医が離任した場合には、事業者はその旨、その理由を衛生委員会に報告すること
産業医がより効果的に活動するために必要案情報が提供される仕組みの整備
産業医が衛生委員会に積極的に提案できることその他産業医の権限の明確化
  • 衛生委員会において、その委員である産業医が労働者に健康管理の観点から必要な調査審議を求められるようにすること
  • 衛生委員会の活発な議論を進めるため、産業医は衛生委員会に出席して専門的立場から必要な発言等を積極的に行うこと

衛生委員会と産業医

前項のとおり、今回の建議においては、「衛生委員会で産業医にかかる事項についての審議」「産業医と衛生委員会」について言及がなされています。
現在の法制度のもとでは、産業医が衛生委員会に出席すること(労働安全衛生法18条2項3号)、衛生委員会での調査審議事項(労働安全衛生法18条1項および労働安全衛生規則22条)が定められています。

<産業医が衛生委員会に出席する定め>
労働安全衛生法18条2項(概要)
衛生委員会の委員は、次の者で構成する。
1 事業場を統括管理するもの、もしくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者
2 衛生管理者
3 産業医

<衛生委員会での調査審議事項>
労働安全衛生法18条1項(概要)
事業者は、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
1 労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策
2 労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策
3 労働災害の原因、再発防止対策
4 労働者の健康障害の防止、健康の保持増進に関する重要事項
労働安全衛生規則22条(概要)
労働者の健康障害の防止、健康の保持増進に関する重要事項には、次の事項が含まれるものとする。
1 衛生に関する規程の作成
2 危険性または有害性等の調査・結果に基づき講じる措置
3 安全衛生に関する計画の作成、実施、評価および改善
4 衛生教育の実施計画の作成
5 有害性の調査ならびにその結果に対する対策
6 作業環境測定の結果・結果の評価に基づく対策
7 定期健康診断、臨時健康診断、自ら受けた健康診断、および他の規定に基づいて行われる医師の診断、診察または処置の結果に対する対策
8 健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成
9 長時間労働による健康障害の防止を図るための対策
10 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策
11 厚生労働大臣、都道府県労働局長、労働基準監督署長、労働基準監督官または労働衛生専門官から文書により命令、指示、勧告、指導を受けた事項のうち、労働者の健康障害の防止に関すること

しかし、産業医が衛生委員会に具体的にどのように関与していくか、また、産業保健のうち、産業医の領域に関する衛生委員会での取扱いについては特に定められてはいません。
そのため、事業者側は産業医に「衛生委員会への出席」を求めはするものの、それ以上のことまで要求できる体力のある事業者は少なかったのではないでしょうか。

産業保健体制の針路

現況、メンタルヘルス対策やストレスチェック対応などを重視して産業医を選んでいる事業者が多いことと思います。
今後は、上記に加えて「衛生委員会への積極的な関与」という視点も産業医を選任する際には、より重要になってくるでしょう。
加えて、建議においては、産業医の業務内容、あるいは離任について、そのほか健康情報の取扱などについても衛生委員会の調査審議対象とすることが提案されています。
産業保健体制の針路としては、「衛生委員会」が体制の核となり、かつ、それぞれの関与者(事業者、産業医)を有機的に結びつける媒介としてのポジションを担うことが求められていくことになると考えられます。

<参考>
「働き方改革実行計画」(首相官邸働き方改革実現会議)
「労働政策審議会建議「働き方改革実行計画を踏まえた今後の産業医・産業保健機能の強化について」を公表します」(厚生労働省)
「衛生委員会ハンドブック」(ドクタートラスト)

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蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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