保健指導の効果を上げる「行動経済学」という英知

わかっているのに、なぜやめられない?

企業で従業員の方々と面談をしていると、「わかってはいるんですが・・・なかなかやめられないですよね」といったお話しをうかがう場面があります。

○○をしたら健康に悪い、○○を食べるとからだに良い
こうした健康・医療情報は、今はインターネットでも容易に検索ができ、またひとたびメディアで取り上げられれば多くの方に浸透するものとなりました。
そのため、医療職からの情報提供がなくても、「何が悪いのか」「どうしたら改善するのか」は何となく知っている、もしくは心当たりがあるものです。

では、知っているにもかかわらず、生活習慣を変えられないのはなぜでしょうか?
さまざまなタイプの対象者を相手に、実効性をもって働きかけるには、こちらもまた多くのスキルを必要とします。
今回は、保健指導に活かせる「行動経済学」についてご紹介させていただきます。

行動経済学とは

人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学の一つ、とされています。
一見、「経済学が保健指導にどう結び付くの?」と思われる方もいるかもしれませんが、行動経済学は、言葉通り「人間の行動」に着目した学問です。
行動特性や、その行動の中に存在する一定のパターン、また影響を与えるファクターを分析することで、選択するものを意図的に誘導することが可能、ということなのです。

行動経済学に基づいたアプローチ手法

フレーミング効果
情報の意味は同じであっても、その見せ方・伝え方を変えることで、相手に与える印象も変えてしまうものです。
例えば、こちらを比べてみて下さい。(それぞれAとBを比較)

A)この手術は死亡率が10%です
B)この手術は生存率が90%です

A)明日お返事します
B)24時間以内にお返事します

A)脂身20パーセントのお肉
B)赤味80パーセントのお肉

いかがでしょうか?
客観的な事実は変わらないのに、AよりBの方が、ポジティブな印象を受けませんか?

このように、利益(ポジティブ)になるか損失(ネガティブ)になるかを判断し、
全く同じものを見ていながら、言葉の使い方によっては正反対の判断を下すことがあるのです。
日常的な会話でも、表現一つで対象者の意思決定を左右するかもしれません。

時間と満足度の変化
人間には、遠い将来のことに対しては我慢強く、近い将来に対しては我慢強くない、「目先の欲望に打ち勝つのは難しい」という傾向があります。

例えばビールが1本、冷蔵庫に入っているとします。
あなたは今、お風呂上がりで喉が渇いていますが、今すぐ飲むのと、今は我慢して明日飲むのとでは、どちらがいいでしょうか?
多くの方は、もちろん「今」でしょう。
1日経ってビールそのものの味が変わるわけでも、量が減るわけでもありませんが、「お風呂上がりの今」飲むビールより、「明日のビール」から得られる満足度を低く捉えてしまうからです。

もし、飲酒をセーブしようと考えるのであれば、時間や手間をかけないと「今」の満足を得られないようにするとよいでしょう。
具体的には、ビールを冷蔵庫に常備しておかない、ビールはあっても冷やしておかない、といった少々面倒な状況を作ること。
これは同時に「今」の満足度を下げることであり、”欲しいな”と思っても実際それを実現できるのがだいぶ先になるとなれば、「やめておこう」という気持ちになるのです。

行動変容へと結びつける以外にも、さまざまな場面で使えそうなスキルですね。
ぜひ、活用してみて下さい。

(参考:保健指導向上委員会)

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