膵臓がん、なぜ増加を止められないのか?

先日、大相撲の元横綱千代の富士の九重親方が膵臓(すいぞう)がんのため亡くなられたことが報じられました。
九重親方は、昨年膵臓がんの手術を受け、一度職務に復帰したものの、その後転移が見つかったとのことです。
実は、この膵臓がんという病気は、検査や治療の技術が進歩した現代においても治癒が難しい、非常にやっかいながんなのです。

膵臓がんの死亡率 第4位に上昇

2013年の臓器別がん死亡率では、肺がん、胃がん、大腸がんに次いで、長年第4位だった肝臓がんを上回り、膵臓がんが第4位となりました。
がんの中でも、膵臓がんは死亡率が増え続けている数少ないがんの一つです。
膵臓がんの増加の詳しい理由は不明ですが、運動不足や食生活の欧米化に伴い、近年糖尿病や膵炎を患う人が増えているため、こうしたことが増加の背景になっているとも考えられます。

早期発見の難しさ

膵臓がんの死亡数が増えていることの理由の一つは、「早期発見の手立てが少ない」ことです。
早期発見が難しい理由は、「膵臓がんに特異的な自覚症状がないこと」、「どのような人が膵臓がんになりやすいのかが未だよくわかっていないこと」とされています。
膵臓は、体の奥深くにあるためレントゲンでは見ることができず、また口と直接つながっていないため胃カメラで調べることもできません。
さらに、初期の膵臓がんにはほぼ自覚症状がないため、発見された時にはすでに病状が進行している状態であることが多くあります。
特に小さな膵臓がんでは、さまざまな検査を駆使しても腫瘍の描出が困難なことが多く、現状では膵臓がんの「早期発見」は難しいといわざるを得ません。

膵臓がんの初発症状

・腹痛 32.0%
・黄疸 18.1%
・腰背部痛 6.3%
・糖尿病の悪化 6.3%
・食欲不振 6.1%
・体重減少 4.0%
・全身倦怠感 4.0%

いずれも膵臓がんに特異的な症状ではなく、膵臓がんと診断された時点でも12.4%の方にはまったく症状が認められていません。

膵臓がんの危険因子

・家系内に膵臓がんの人がいる
・高齢、男性
・糖尿病
・胆石、胆嚢炎の既往歴
・慢性膵炎
・喫煙
・コーヒー嗜好家(1日4杯以上)
・肉食、燻製、加工肉を好む
・肥満

健康診断では発見できない

上述のとおり、膵臓がんは非常に発見しにくく、多くの場合で発見時にはかなり進行した状態のため、致死率の高い恐ろしいがんです。
がんは、「いかに早く発見するか」が最も重要なポイントです。
標準的な健康診断の中で、膵臓がんを発見できる可能性がある検査は「腹部超音波検査」です。
しかし、腹部超音波検査で膵臓がんを早期発見できる可能性は0.06%以下というデータもあります。
つまり、標準的な健康診断で膵臓がんを早期発見することは極めて難しいということです。
毎年健康診断を受けているからと過信せず、少しでも心配があれば医療機関で膵臓がんの検査を受けるようにしましょう。
上述の危険因子に該当する人に、よくある症状(上述の初発症状や皮膚の掻痒感、嗜好品・便通・気分の変化など)が見られた場合には、血中膵酵素/腫瘍マー力ー/腹部超音波検査/造影CT検査を行います。
これらの画像所見等から膵臓がんの診断に至らない場合には、さらにさまざまな検査(MRCP、EUS、ERCP、PETなど)を組み合わせ総合的に診断していきます。
小さい膵臓がんでは、これらの検査を駆使しても腫瘍の描出が困難なことが多く、現状では膵臓がんの早期発見については、あまり希望が持てません。

参考:日本消化器病学会

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高橋 さなえ株式会社ドクタートラスト 産業保健部 保健師

投稿者プロフィール

会社員時代に産業保健に興味を持ち、保健師になりました。
企業勤めの経験を活かし、はたらく人にとって身近なテーマを発信させていただきます!

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