労災が発生!衛生管理者は処罰を受けるか?

衛生管理者の役割

すでに衛生管理者の資格をお持ちの方はご存知だと思いますが、衛生管理者については法令で次のように定められています。

(労働安全衛生法第12条)
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し、その者に第10条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。

(労働安全衛生法第10条第1項)
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。
一  労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること。
二  労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること。
三  健康診断の実施その他健康の保持増進のための措置に関すること。
四  労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること。
五  前各号に掲げるもののほか、労働災害を防止するため必要な業務で、厚生労働省令で定めるもの。

つまり衛生管理者の役割は、従業員が安全で健康に働けるための施策や教育について管理することです。
具体的には、健康診断については受診の管理を行って受診率をあげるための施策を考えたり、再検査の受診についても管理することです。

労働災害においては、原因の調査、防止策についての検討と、従業員が心身ともに健康に働ける職場環境を整備するための管理業務といえます。

企業には安全配慮義務がある

今日の労働災害防止の法的な責任については、「安全配慮義務」という考え方が定着しています。
労働契約関係に付随する信義誠実の原則に基いて最高裁が判例を示し、平成20年3月に施行された労働契約法において明文化されています。

(民法第1条2)
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

(労働契約法第5条)
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

これは、会社は労働者の生命、身体等を労働災害から守り、保護して働かせる義務を負っているということで、会社が従業員と労働契約を結んだ段階で、その義務が発生するということです。
また、労働安全衛生法は、労務災害の責任体制を明文化し、労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境を促進することを目的としています。
安全衛生法においては、「事業者は○○○をしなければならない」という形で事業者の責任を定めていますので、労働災害が発生した際の責任は、「事業主=会社」の責任であると明確に示しています。

では、労働災害が発生した際に衛生管理者に責任はないのか?ということになりますと、労働安全衛生法には次の定めがあります。

(労働安全衛生法第122条)
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関して、第116条、第117条、第119条又は第120条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。

これは、会社から業務執行権と責任を委譲されている管理者も処罰の対象になるということですが、衛生管理者に事業場の業務執行権と責任を委譲されていることは非常に稀で、「衛生管理者=業務の管理者」とはならない場合が多く、そのため「労務災害が発生した際の責任=衛生管理者の責任」とはならないのが現状といえます。

衛生管理が形骸化してないか?

産業保健に関わる仕事をしている中で、会社内で衛生管理者が形骸化してしまっている場面を多く見てきました。
労働基準監督署に届け出る必要があるからといった理由だけで選任し、衛生委員会のメンバーではあるが、職場の巡視を行うわけでもなく、定期健康診断の受診や労働災害の防止対策に関わるわけでもないという状況にしてしまっているとしたら、労働安全衛生法に違反しているといっても過言ではありません。
会社としては、前述の業務を衛生管理者に行わせる必要があるのです。
また、衛生管理者の方も、単に有資格者というだけではなく、衛生管理者の職務について再確認していただきたいところです。

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