
昨今の高齢化社会において大きな問題となっているのが「認知症」。介護の問題はもちろん、徘徊に伴う事故、行方不明などニュースに取り上げられることも多く、社会全体で考えていかなくてはならない問題である。認知症といえば高齢者がかかる病気という認識が強いが、若い世代でも認知症を発症することがあるのをご存知だろうか?
若い世代でも起こる認知症
一般的に、65歳以上で発症するものを「認知症」と呼ぶのに対して、65歳未満で発症するものを「若年性認知症」と呼んでいる。疫学研究によると45〜64歳における若年性認知症の有病率は人口10万対80〜150人程度で、女性の方が多いという結果だ。若年性認知症の原因として最も多いのは脳血管性認知症(脳梗塞や脳出血に起因して起こる)、次に多いのがアルツハイマー型認知症で、この2つが原因の4分の3を占めている。若年性アルツハイマー型認知症は「明日の記憶」という小説・映画でも取り上げられており、この話を通して知った方もいるのではないだろうか。
うつ病と間違われることも
脳血管性認知症のように、脳梗塞の後に発症するなどきっかけがはっきりしている場合は気付きやすいが、アルツハイマー型のように徐々に発症して、はっきりとしたきっかけがない場合は、本人はもちろん周囲の人間もなかなか気付くことができない。初期症状として現れる意欲低下・抑うつ・作業能率の低下などはうつ病の症状と重なる部分が多く、病院を受診してもうつ病との鑑別が難しいことがある。前述の症状に加えて以下のようなことがある場合は認知症の可能性も考え、産業医や産業保健スタッフへの相談、専門機関の受診も検討してほしい。
・以前と比べて明らかに仕事のミスが目立つ
・依頼した仕事を忘れる/間違って記憶してしまう
・説明する内容が理解できない
・怒りっぽくなり、急に大きな声で怒鳴ったりする
・日付や曜日、人の名前などを度々間違える
認知症が疑われる場合は神経内科や認知症専門医のいる精神科を受診し、MRIや脳波の検査を受けることで診断をつけることができる。
元には戻らないけれど・・・
残念ながら現在の医療では認知症を完全に治すことはできない。また、「まだ若いのに認知症になってしまった」という事実を本人も家族も受け入れることができないケースが多い。しかし、きちんと診断を受けることで、周囲の人の「対応の仕方」を変えて仕事のミスやストレスを減らす工夫ができるだろう。認知症の進行を遅らせるための薬も開発されており、内服しながら生活している人も多くいる。若年性認知症は身近な病気ではないものの、決して自分と関係のない病気ではない。早期発見することで、上手に病気と付き合いながら仕事を継続していけるような環境作りが大切である。