パワハラ問題の紛争解決にも「調停」が導入されることに! ADRを知っていますか?

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2019年5月末の参議院本会議での可決をもって、いわゆる「ハラスメント防止法」が成立し、大企業では2020年4月から、中小企業では2022年4月から適用見込みであることは記憶にも新しいと思います。
今回話題になったパワハラ防止措置義務を定めたのは「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」という法律で、従来の「雇用対策法」が働き方改革推進法によって名称変更されました。
日本では初めてパワーハラスメントが明文化されたことに加え、防止や予防が義務づけられたことで注目を浴びました。
さらに、今般の改正で大きく変更された点がもう一つあります。
それはこれまで「あっせん」のみが認められていた紛争解決のための手段「調停」が、パワハラ問題でも利用できるようになったことです。
「調停」はADR(裁判外紛争解決)の一つですが、どのようなものか? 他にどんな手段があるか? メリットなど確認していきましょう。

ADR(裁判外紛争解決)ってなに?

ADR(Alternative Dispute Resolution、裁判外紛争解決)とは、簡単に言えば、民事訴訟などの裁判を行わない紛争を解決するための制度です。
2007年4月1日に施行された「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(通称ADR法)」に定められ、厳格な裁判制度に適さない紛争の解決手段として、国民がより身近に司法制度を活用できるようにすることを目的にしています。
また、本法の認証制度により弁護士以外の法律に携わる専門家(認証紛争解決事業者)が和解などの仲介に入ることを認めているのが特徴です。

・ 都道府県労働局での個別相談の受け付け・情報提供
・ 都道府県労働局長による助言・指導

上記のような一次的な窓口の設置が行われており、広く相談を受け入れています。
※違法行為に関する指導・監査などを求める場合は、労働基準監督署、公共職業安定所、雇用環境・均等部(室)への相談

その後の具体的な紛争解決手段としては以下があります。

1. 「あっせん」

紛争当事者の間に労働問題の専門家が入り、双方の主張の要点を確かめ調整を行い、話し合いを促進することにより、紛争の解決を図ります。
<特徴>
① 利用料無料
② 裁判にくらべて手続きが迅速かつ簡便
③ 弁護士や社会保険労務士など労働問題の専門家である紛争調整委員が仲介を担当
④ 手続きは非公開、紛争当事者のプライバシー保護
⑤ 紛争当事者双方の同意のうえであっせん実施
⑥ 紛争当事者が求めた場合には、両社に対して、事案に応じた具体的なあっせん案を提示
➡〇:紛争当事者双方があっせん案を受諾、もしくはその他の合意成立の場合、迅速な紛争解決
➡×:紛争当事者双方の合意が成されない場合、他の紛争解決機関の説明や紹介

2. 「調停」

調停は、裁判のように勝ち負けを決めるのではなく、話合いによりお互いが合意することで紛争の解決を図る手続で、調停手続では、一般市民から選ばれた調停委員が裁判官とともに紛争の解決に当たります。
<特徴>
① 原則として、相手方の住所地区管轄の簡易裁判所への申し立て
② 申し立てから終了まで手続きが簡単なため特別な法律知識は必要なく自分一人で行うことが可能
③ 費用(裁判所に納める手数料)が訴訟にくらべて低額
④ 手続きは非公開、プライバシーの保護
⑤ 問題解決まで調停期日を重ねられ、日程に当事者の都合に合わせやすい
※合意見込みがないと判断された場合、調停委員会が不成立の判断をする場合あり
⑥ 迅速な解決(通常、申立から2~3回調停期日が開かれ、おおむね3か月以内に終了)
➡〇:話し合いにより合意に至り調停成立、調停調書の書面化(判決と同じ効力があり、強制執行を行なうことも可能)
➡×:合意に至らず調整不成立 → その他紛争解決方法へ移行

3. 「仲裁」

紛争当事者双方の同意のもと、第三者である仲裁人の判断(仲裁判断)により紛争解決を行う手続。
<特徴>
① 紛争当事者双方の合意に基づいて行われる
② 特に資格を必要としない仲裁人は当事者双方の合意により決定
③  仲裁判断は確定判決と同じ効力があるため、当事者は拒否することはできない
④  控訴や上告などの不服申し立て制度はなく仲裁が行なわれた紛争について裁判を起こすことはできない

ADR(裁判外紛争解決)のメリットは?

まず、労働相談の延長として利用のしやすい制度であることが挙げられます。
都道府県労働局での相談からあっせん申請する場合にはワンストップで行うことができます。
労働者・事業主(使用者)双方が利用することのできる間口の広さも利用のしやすさに寄与しています。
必要経費や手続き時間など、負担は民事訴訟にくらべて大幅に軽減されるため、迅速な解決を求める際には有効な選択肢と言えるでしょう。
労働者にばかり利用しやすい制度の様な印象を持っている企業担当の方が以前いらっしゃいましたが、企業(使用者)側にもメリットはあります。
まず、同様に民事訴訟に比べて解決までの期間が短くできる可能性があることで、時間的にも人的資源的にも、もちろん金銭的にもいろいろな面でコストを抑えることが可能です。
さらに、企業として大きいメリットが秘匿性です。
あっせん、調停、仲裁はどれも非公開の秘匿性が担保された紛争解決方法です。
民事訴訟のように、傍聴人がいるケースもなければ、裁判例のように公開されることもありません。
勝敗に関わらず、原告被告どちらとしてでも企業が訴訟で係争していることは大きなイメージダウンにつながりかねません。
また、労働訴訟の場合には、対個人との訴訟が波及して団体との係争に発展するケースもなくはありません。
秘匿性を保った状態で、個別の事案に対して対応を行うことができる点も大きなメリットです。

制度を理解して必要に応じて上手に活用しよう

ここまで、労働関係問題の紛争解決手段としてADR(裁判外紛争解決)をご紹介してきましたが、決して「裁判より手軽なんで、どんどんADRを利用して係争してください」ということではありません。
まず、問題になりそうな時や問題が表面化してきた時に相談窓口などを活用するべきであると感じます。
管轄省庁の直轄機関として公的な相談窓口が設けられていて、利用料も無料ですし、ADRでも民事訴訟でも、最終的には法律に則って解決をしますので、専門機関に直接相談することは非常に有効です。
企業としては、問題点を自ら報告する形になりかねませんので、腰が重くなるとは思うのですが、すでに顕在化し始めている問題に対する具体的な対応策や、今後の改善点など相談の上指導を受けられます。
無料で実際に取り締まっている機関から無料でコンサルが受けられて、企業としては問題点を改善できることにつながります。
もちろん、その後ADR制度など双方にとってなるべく負担も少なく解決に向けて具体的に迅速に移行することも可能です。
働き方改革関連法案成立の陰でひっそりと制度が利用しやすくなっています。
知らなかったでは非常にもったいありませんので、この機会に覚えて有効活用してください。

参考リンク
・ 厚生労働省「個別労働紛争解決制度」https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/index.html
・ 裁判所「民事調整手続」http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_minzi/minzi_04_02_10/
・ 裁判所「納付手数料一覧表」http://www.courts.go.jp/vcms_lf/20161001minsohiyouhoubeppyou1.pdf

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唐澤 崇

唐澤 崇株式会社ドクタートラスト

投稿者プロフィール

前職では、長時間労働があたりまえの業種で働いていました。好きな仕事であれば特に苦にも感じずがむしゃらに働いていましたが、子供が産まれてプライベートな時間とのバランスの大切さに気づき転職。
現在は、縁もあり産業医の先生方はもとより、法学者や社会保険労務士の方々ともお付き合いをさせていただくようになりました。法律の面からも働く方々だけでなく企業自体が安全で健全な繁栄を続けていけるよう、サポートしていきたいと考えています。
【保有資格】メンタルヘルス法務主任者、産業保健法務主任者、健康経営アドバイザー

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