良かれと思って「友達申請」しただけで、加害者になる?

皆さんは「タグ付け」という言葉を聞いたことはありますか。
これは、SNS上の投稿において、関連する人の名前を入力する行為をいいます。
タグ付けをすることで、自分自身の投稿ページやプロフィールページのみならず、相手のページにも当該記事が掲載されるようになるので、非常に便利な機能の一つです。

総務省情報通信政策研究所が2017年に実施した「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」によれば、2016年時点で、SNSを利用している人の割合は、10~60代で71.2%に上り、特に20代、30代においては90%を超えているようです。
もっともこれは、数年前のことになりますので、同じ調査を2019年に実施すれば、世代を問わず割合は上昇すると思われます。
つまり多くの人にとって、SNSというのは日常的に利用するツールと化しているわけですね。

私は前述の調査において90%を超える世代に属しており、やはり多くの人同様に、日常的にSNSを利用し、記事を投稿したり、あるいは人の記事を読んだりしています。
このうち、「人の記事を読んだり」という観点でいいますと、あくまで私個人の主観ではありますが、年代的に40代より上の世代の人たちのなかに「自分の勤務先をプロフィールに書いている人」、「仕事関連の投稿(イベントに参加した、出張に行った)をする人」、あるいは「仕事関係の人と飲んで、その写真を投稿する、あるいはタグ付けをする人」が他の世代にくらべて多い印象を受けます。
「そんなことしてないよ!」とおっしゃる方も大勢いると思います。
あくまで主観です…!

さて、このような投稿をSNSで見るとき、私が感じるのは「すごいな~」で、言葉の裏には「自分にはこのようなSNSの使い方はできない」という気持ちがあります。
仮に私が上司や先輩、同僚と飲み会をし、皆で集合写真を撮ったあと、「タグ付け」の申請が来たら……。
たぶん大いにうろたえると思います。
もっとも、ドクタートラストは仕事のオンオフと大事にする社風なので、こういったことは起こらないのですが!

善行が加害になる「ソーハラ」

最近は数多あるハラスメントのなかでも「パワハラ」が特に注目を浴びています。
早ければ2020年春にも企業に対して「パワハラを防止する義務」が科される見通しであり、法案の動向を見守っている人事総務関係者の方も多いのではないでしょうか。

一方で、ひところ騒がれたものの、あまり耳にしなくなったのは、通称ソーハラ、正式名称「ソーシャルメディア・ハラスメント」です。
ソーハラは、他のハラスメントにくらべて定義があいまいであるとされていますが「SNSを通じて行われる嫌がらせ」と解されており、代表例は以下が挙げられます。

・職場の人から友達申請があり、断れない
・職場の人から「いいね!」「コメント」を強要される
・職場の人にSNSでの投稿、やりとりを職場で取り上げられる

「ええっ、これってハラスメントなの?」と驚かれた方もいるかもしれませんね。
上記ではあえて「職場の人」としましたが、これを「上司」と読み替えるとどうでしょうか。

上司と部下のSNS事情

株式会社ALL CONNECTが2017年に実施した「上司と部下の SNS 事情に関する調査」では、部下の立場にある20代、上司の立場にある30~40代に、それぞれアンケートを行っています。
同調査によれば、上司からSNSで友達申請を受けたことがある部下は、全体の55.5%に上り、そのときにとった行動は以下のとおりです。

・ 仕方なく承認した:37.8%
・ 快く承認した:23.4%
・ 無視した:18.9%
・ 保留にした:18.0%
・ 断った:9.9%
・ その他:0.9%

上司からの申請を快く思っている人は、全体の4分の1にも満たず、多くの人が「SNSではそっとしておいてほしい」と思っていることがわかります。

一方、同調査においては、部下にSNSで友達申請を送ったことがあるかを上司の立場の人に尋ねており、全体の33.5%が「申請したことがある」と答えています。
また、この理由は以下の通りです(複数回答)。

・ 仕事のやりとりをスムーズに行いたかったらから:38.8%
・ 共通の話題を見つけたかったから:32.8%
・ 上司部下のような関係ではなく、友達のような関係になりたかったから:31.3%
・ プライベートを見てみたかったから:17.9%
・ 会社に悪影響を及ぼすような発言・行動をしていないか監視したかったから:17.9%
・ どのような人なのか気になったから:16.4%
・ SNSの友達人数を増やしたかったから:16.4%
・ 恋愛対象として見ているから:13.4%
・ その他:3.0%

中には悪質なもの、あるいは「監視」といった消極的なものもありますが、大半の場合は、「部下とのコミュニケーション」をしようと思って、つまり「良かれと思って」申請していることがわかります。
ソーハラの非常に難しい点はこの「善意の行い」が「加害」になりえるというところでしょう。

気楽な「申請」、「タグ付け」にはご注意

前述の「パワハラ防止義務化」が施行されると、企業には「パワハラ防止措置」として、「相談窓口の設置」や「パワハラをした人の処分」を定めることが義務づけられる見込みです。
この流れであれば「パワハラ防止規程」などでの明文化も必要になってきそうですね。

一方で、多くの企業で「個々人の良心」に任されているのが、SNSの使い方です。
もともとは「ネットとリアル」のように異なる次元で扱われていたところ、実名制のSNSの台頭などもあり「ネットもリアル」とみなすべきなのが昨今の風潮です。
パワハラ防止策を講じるに際しては、SNSについても何らかの形で減給しておくことをお勧めします。

季節は5月になり、研修を終えた新入社員がそれぞれの部署に配属される時期でしょうか。
上司の皆さんの中には、思わず「SNSで友達申請」してしまうかもしれません。
また「新入社員歓迎会なう!」とついつい「タグ付け」してしまうかもしれません。
仮にそれが気楽なものであったとしても、若手社員にとっては非常に重たい可能性も往々にしてあることを頭の片隅に置いておきましょう。

<参考>
・ 総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
・ 株式会社ALL CONNECT「上司と部下のSNS事情に関する調査」

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蜂谷未亜株式会社ドクタートラスト 編集長

投稿者プロフィール

出版社勤務を経てドクタートラストに入社。産業保健や健康経営などに関する最新動向をいち早く、そしてわかりやすく取り上げてまいります。
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