一歩間違えば大惨事! 「健康起因事故」をいかに防ぐか

増え続ける健康起因事故

「健康起因事故」をご存じですか?
健康起因事故とは、運転手の健康状態に起因する交通事故のことです。
運転手が持病により乗務を中断したり、突然意識を失って物や歩行者に衝突するといった事故のことを指しますが、これが近年増加傾向にあります。
国土交通省によれば、事業用自動車の健康起因事故件数は平成15年には51件だったところ、平成28年にはその6倍、304件に達しました。
内訳は、乗合バス143件、トラック75件、タクシー68件などです。

この304件のうち、人身事故は15件ですが、運転中(信号待ち、乗降扱い中を含む)に意識障害等により運転操作が不能となったものは88件もあり、右肩上がりに増えています。
88件の運転操作不能案件のうち、脳疾患(くも膜下出血、脳内出血等)は31件、心臓疾患(心筋梗塞、心不全等)は18件を占め、ここには運輸業における「ドライバーの高齢化」という問題も顕著に表れています。

※ 運輸業は、弊社のストレスチェック調査においても、最も「健康リスク」の高い業種という結果となりました。
「ストレスチェックで判明! 業種別「健康リスク」大発表 ~Part1」(2017年7月25日付産業保健新聞)

健康起因事故の増加傾向は、それとも重なる事象といえます。

免れ得ない企業責任

ひとたび健康起因事故が発生すれば、企業は間違いなく責任を問われます。
運転手の体調不良を把握しながら業務を行わせたとすれば、当然法的責任を免れませんが、仮に体調不良や持病を把握していなかったとしても、民事責任を問われる可能性は極めて高いです。
たとえば、平成23年に栃木県で運転手がクレーン車を運転中、てんかんの発作を起こして意識を失い、歩道を歩行していた6名をはねて死亡させた事故がありました。
このケースでは、勤務先は運転手がてんかんであることを把握していなかったようですが、使用者責任として賠償責任があるという判決が出されました。

そもそも事業者には、労働安全衛生法に基づき、労働者の安全と健康を確保することが求められます。
もしそれを怠っていたとしたら、安全配慮義務違反を問われることになるのです。

国も本腰を入れ始めている

国も事態改善に向けて動き始めています。

平成29年1月に「道路運送法及び貨物自動車運送事業法」が改正され、「事業者は、事業用自動車の運転者が疾病により安全な運転ができないおそれがある状態で事業用自動車を運転することを防止するために必要な医学的知見に基づく措置を講じなければならない」という一文が加えられました。
現行法においては、事業者に「過労運転の防止措置」が課せられていますが、これに「疾病運転の防止措置」の義務も加わったという点が本改正の要諦です。

つまり事業者は、運転者が安全運転のリスクとなり得る病気でないかを常時調べ、予防や治療といった対策を講じる必要があり、健康状態のチェックがますます重要になったのです。

阻止できるのは企業努力のみ

事業者には、義務づけられている健康診断に加え、脳ドックや心臓ドック、SAS(睡眠時無呼吸症候群)検査などのスクリーニング検査を広く実施することが推奨されるようになりました。
それら体の健康診断に加えて、心の健康診断ともいえるストレスチェックなども積極的に活用したいものです。

健康起因事故に直結するのは各人の健康状態ですが、職場環境が悪ければそれを悪化させる要因となりますし、逆に良い職場環境は、各人の健康意識を高めたり、豊かなコミュニケーションによって健康リスクそのものを軽減することもできます。

健康起因事故は、一般的な交通事故よりは頻度が低いものの、ひとたび発生すれば大惨事となります。
被害者に甚大な被害がもたらされるのみならず、事業者も莫大な賠償請求や社会的信用の失墜により未曽有の危機に直面するでしょう。

健康起因事故を絶対に阻止するという経営者の揺るぎない信念と、それに基づく実効的な取り組みが運輸業には必須であり、従業員の健康増進に真摯に取り組んでいくそのプロセスは、結果的に業績向上や株価向上、イメージ向上といったメリットを事業者にもたらすことになるのではないでしょうか。

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