過労死白書でわかった10のこと

2016年10月、厚生労働省より「過労死白書」が公表されました。

平成28年版過労死等防止対策白書

世界初といわれる本白書により明らかになった10のポイント(下記)を解説していきます。

1 一般労働者の労働時間は高止まり状態
2 日本人の労働時間は、韓国、アメリカより少ない
3 勤務原因の「自殺者」年2,000人超。労災認定は内1割
4 <脳・心臓疾患>労災請求は10年前から微減
5 <精神障害>労災請求は10年前の2.3倍
6 <精神障害>最大要因は「上司とのトラブル」
7 <脳・心臓疾患>リスク最大業界は「運輸業・郵便業」
8 <精神障害>リスク最大業界は「製造業」
9 最も疲労が蓄積する業界は「宿泊業・飲食サービス業」
10 最もストレスの高い業界は「医療・福祉業」

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1 一般労働者の労働時間は高止まり状態

労働者1人当たりの労働時間は、平成27年度は1,734時間(年間総実労働時間)。
年号が平成になったばかりの頃は2,000時間を超えており、この20年以上にわたって、年々減少していることが明らかになっています。
ただし、労働者を「一般労働者」と「パートタイム労働者」とに分けると、また別の様相が見えてきます。
一般労働者は、2,000時間前後で高止まりしているのです(1-2図)。
その一方、パートタイム労働者の労働時間は微減で推移しています。
パートタイム労働者数が近年増加傾向にあることを考え合わせると、「労働時間が減少傾向にある」のは、パートタイム労働者の割合が増加したためと考えられます。
16-1-1-2

2 日本人の労働時間は、韓国、アメリカより少ない

日本人は、国際的に見て働き過ぎとよくいわれますが、日本より働いている国はあるようです。
例えば1-15図のように、韓国やアメリカの労働時間は、日本を上回っています。また、韓国の長時間労働者の割合は、群を抜いています(1-16図)。

韓国は若年失業率の高さなど、労働環境の厳しさが取り沙汰されますが、長時間労働も課題のひとつであるようです。
1-15
16-1-1-10-2

3 勤務原因の「自殺者」年2,000人超。内1割が労災認定

日本の自殺者数は、平成10年以降14年間連続で3万人を超えていました(4-1図)。
しかし、国を挙げた自殺防止対策が功を奏していることもあり、平成24年にはついに3万人を割り、平成27年は24,025人となりました。
そのうち「勤務問題を原因の1つとするもの」は2159人。グラフによれば、この指標もここ5年ほどは減少傾向ですが、もっと長いスパンで見た場合、必ずしも減っているわけではありません。
16-1-1-18自殺に関わる労災認定件数を見ます。5-20図は、精神障害に関する労災補償状況です。このなかで、平成27年の請求件数および決定件数のうち、自殺者はいずれも200人前後。「勤務問題を原因の1つとするもの」とする自殺者は2000人を超えているものの、労災認定はそのわずか10分の1というところに大きな課題が見えます。
16-1-1-33自殺の労災認定は本人ではなく、残された家族が進めることになりますが、悲しみのなかで作業を進めることの辛さ、自殺と業務との因果関係を証明することの難しさ、社会的な偏見との格闘、非協力的な会社との折衝など、いくつものハードルを乗り越えなくてはなりません。そうした困難の大きさを、この労災認定の少なさが表しているといえるでしょう。

4 <脳・心臓疾患>労災請求は10年前から微減

5-1図は、業務による過重な負荷によって脳血管疾患または虚血性疾患など(これを本調査では「脳・心臓疾患」と表現している)を発症したとする労災請求件数の推移です。
16-1-1-21平成27年は795件。10年ほど前から減少トレンドにあるようにも見えます。労働者の年齢が全体的に上がり、その分、脳・心臓疾患者の割合は高まっているはずですが、一方で検査や予防、治療などの医療技術が進化を遂げていることなどが、この数値の上昇を抑えているのだろうと考えられます。支給決定件数も減少傾向といえるでしょう(5-2図)。
16-1-1-21-2

5 <精神障害>労災請求は10年前の2.3倍

先ほどの5-1図とこの5-12図とでは、グラフの傾向が全く異なることがわかります。
16-1-1-28脳・心臓疾患の労災請求が減少しているのと比べ、5-12図の精神障害の労災請求件数は年々増加の一途をたどっています。10年前と比較すると約2.3倍、15年前の7倍以上。支給決定件数も増加しています(5-13図)。

働く人は誰しも精神障害のリスクから逃れ難くなっているということを、このグラフは表していると捉えるべきでしょう。

5-13

6 <精神障害>最大要因は「上司とのトラブル」

精神障害の労災認定要件は3つあり、その1つは次のようなものです。
「認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」
「業務による強い心理的負荷が認められる」とは、業務による何らかの「具体的な出来事」があり、それが労働者に強い心理的負荷を与えたことをいいます。5-23図は、その「具体的な出来事」別の件数を示しています。
5-23平成27年度の決定件数欄を見ると、具体的な出来事としての1位は「上司とのトラブルがあった(259件)」、2位「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(152件)」、3位「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、または暴行を受けた(151件)」でした。

左端にある「出来事の類型」という大きなくくりで見ていくと、「対人関係」の件数が際立っています。

7 <脳・心臓疾患>リスク最大業界は「運輸業・郵便業」

脳・心臓疾患の労災請求件数の多い業種は、1位「運輸業、郵便業(181件)」、2位「卸売業、小売業(116件)」、3位「建設業(111件)」という順です(5-3図)。
5-3決定件数は、この2位と3位が入れ替わりますが、いずれにせよこれら3業種は、労働者の健康管理に関して、いっそうの注意が必要であると改めて認識すべきでしょう。

8 <精神障害>リスク最大業界は「製造業」

精神障害の労災請求件数の多い業種は、1位「製造業(262件)」、2位「医療、福祉(254件)」、3位「卸売業、小売業(223件)」という順です(5-14表)。決定件数も、この順番でした。
16-1-1-29以上は業種の「大分類」ごとの結果ですが、「中分類」ごとに請求件数を見ると、「医療、福祉」分野が上位にあがり、「社会保険・社会福祉・介護事業」が1位、「医療業」が2位。

これら製造業ならびに医療・福祉業といった業種は、どんな業務や環境が労働者の心理的負荷になっているのか、各職場での精査が必要ではないでしょうか。

9 最も疲労が蓄積する業界は「宿泊業・飲食サービス業」

厚生労働省から委託され、みずほ情報総研が行ったアンケート調査「平成27年度過労死等に関する実態把握のために社会面の調査研究事業」の結果が、本白書には多数掲載されています。
そのなかに「疲労の蓄積度」に関する結果があり、それは最近1か月間の勤務の状況や自覚症状に関する質問により判定した疲労の蓄積度を業種別に見たものです(2-10図)。
16-1-2-9「高い」「非常に高い」を合算した場合に上位に来る業種は、1位「宿泊業、飲食サービス業(40.3%)」、2位「教育、学習支援業(38.9%)」、3位「運輸業、郵便業(38.0%)」。それに「医療、福祉」「生活関連サービス業、娯楽業」が続きます。
4割の人が疲労の蓄積を強く感じているこれらの職場は、やはり過労死リスクが高いといわざるを得ないでしょう。

10 最もストレスの高い業界は「医療・福祉業」

9と同じ調査のなかに、ストレス状況に関する質問もあります(2-11図)。
ストレスが高い(4点以上)と判定された人の割合を業種で比較すると、1位「医療、福祉(41.6%)」、2位「サービス業(39.8%)」、3位「宿泊業、飲食サービス業(39.2%)」、「卸売業、小売業(39.2%)」。これらに「農林漁業、鉱業等」「情報通信業」などが続きます。
2-11とはいえ、業種の差はあまりなく、全般的に労働者の「ストレスは高め」といえるでしょう。また、2-1図によれば、全労働者の約半数がストレス等を感じています。
16-1-1-10これらのデータは、企業におけるメンタルヘルス対策の必要性を強く訴えているように感じます。

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