仕事しすぎで突発性難聴に……労災認定はされるか?

見えないところから「○○さん」と呼びかけられても、本来は聞き取ることができるでしょう。
しかしその機能は、突発的に、またはさまざまな原因によって、永久的に失われてしまうこともあります。
もし隣の同僚の耳が急に聞こえなくなってしまったら……?
あなたの耳が急に聞こえなくなってしまったら……?
今回は「難聴」について、考えていきます。

難聴とは何か

難聴には大きく分けて2つの種類があります。
伝音性難聴と感音性難聴です。

伝音性難聴とは、伝音器と呼ばれる部分に機能的な障害が発生し、音が聞こえにくくなる症状を指します。
たとえば、耳たぶや耳の穴(外耳)鼓膜、鼓膜奥(中耳)の音を伝える骨の部分が伝音器にあたります。
代表的なものとしては、中耳炎等、炎症を起こすことで鼓膜等の機能が正常に働かず、耳が聞こえづらくなってしまうケースがあげられるでしょう。
伝音性難聴のほとんどは、それぞれの症状に病名が付き、薬や手術など治療法が明確です。

問題はもう一つの症状、感音性難聴です。
こちらは、いわば耳の神経に障害が出ている状態といえます。
たとえば、聞こえているけれども音が上手く処理されなかったり、音の電気信号を脳へ伝える神経が上手く働かないため、音の内容がハッキリしないといった状態。
聞こえているがゆえに初期症状での自覚が難しく、周りに理解を得られづらい難聴です。

仕事の中で難聴になるケース

■職業性難聴

「職業性難聴」という言葉をご存知でしょうか?
たとえば工場等で長期間騒音にさらされていたり、インカムなど片耳だけに大きな音量を聞き続けた場合などに徐々に進行する難聴をさします。
本人は無自覚であることが多く、また症状も徐々に進行するため、かなり進行するまで気が付かないこともあるようです。

■突発性難聴

「突発性難聴」とは、片耳だけ音が聞こえないケースのほか、話している音は聞き取れても、それを言葉として耳で処理できなくなる等、さまざまな症状がある難聴です。
たとえば、セミの声を聴いた人が「セミの声だ」と認識するのは脳がセミの声を認識していて判断を下すためですが、セミの声を聴いたことがない人には「セミの声」ではなく「ジージーした音」として認識されることになります。
このように、人の話し声は聞こえているけれども言葉として認識されず、うまく会話ができなくなったりするような症状があります。
突発性難聴は職業性難聴と違い、具体的な原因はわかっていません。
しかし、実際に突発性難聴が発症した人のケースから、強いストレスを感じている時期や、睡眠不足などで身体が疲れているときに発症しやすいといわれています。

難聴かもしれない、と思ったら?

難聴は、早く治療することが実は最も大切です。
耳が詰まったような状態が続いている、聞こえ方に違和感があるといった異常を感じたら、2日以内に、遅くとも1~2週間以内には必ず耳鼻科医の診察を受けるようにしてください。

どちらの難聴も予防が大切です。
特に職業性難聴に関しては、労働基準法では、騒音の大きさによって推奨する耳栓やヘッドホンといった防音保護具が定められています。
適切な防音保護具を使わないと効果が得られないので事業主の指示に従い、きちんと装着するようにしましょう。

また、定期的なチェックも大切です。
難聴の特徴として、高音域の音(たとえば鈴虫やセミの鳴き声、ソプラノ歌手の歌声など)が聞こえづらくなるケースがあります。
もし最近高い音が聴こえにくいと感じたら、難聴の可能性があるかもしれません。
「キー」、「シー」といった高い音の耳鳴りがずっと聞こえているような気がする場合も要注意です。
もともと工場等騒音の気になる職場で働いている場合、可能であれば定期的な聴力検査を受けることをお勧めします。

個人差はありますが、突発性難聴であれば発症後、平均して2週間程度の通院や入院である程度回復するといわれています。
職業性難聴も、治療が早ければ早いほど回復する可能性が高まります。
回復後も1~2年程度は経過観察期間となりますので、一度発症してしまったら、最大2年は注意をしながら生活をする必要があるでしょう。
職業性難聴であれば、音から耳を守るよう、耳栓などの対応を。
突発性難聴であれば、ストレスを可能な限り遠ざけ、睡眠をよくとるようにして、体の回復を心がけるとよいでしょう。

難聴は労災認定されるか

職業性難聴は労災を申請することができます。
労災認定が受けられるのは、85デシベル以上の騒音下で5年以上働いてきた人が目安となるほか、日を変えて3回の聴力検査を行い、85デシベル以上の音にさらされてから1週間までは検査を受けられない規定もあります。
また、労災申請は、離職して5年経過した時点で受け付けないという決まりがあります。
離職してから時間が経ってしまうと、必ずしも職場の騒音が原因ではないとも考えられるからです。
在職中に検査を受けることが望ましいですが、聴力検査の規定上、退職が決まった、もしくは有給休暇消化中に検査を受けるかたちが最もスムーズかもしれません。

逆に突発性難聴は、労災認定を受けられるケースは稀です。
労災は、原則として「勤務時間中」に「行っていた業務が原因」で疾病にかかり、「治療のため医師等の診療」を必要とされる状態である必要があります。
残業が続いて慢性的な睡眠不足に陥り、さらに仕事によるストレスも多く突発性難聴になってしまったとします。しかし、勤務時間中に行っていた業務が原因であるという証明は難しく、最終的には主治医や産業医の判断となります。

難聴にならないために

電話の対応や、言葉のやり取りは、仕事において欠かせない動作です。
自身の周りの人などに少しでも違和感を感じたら、受診を奨める必要があるでしょう。
労働安全衛生法等に数々の規定があっても、自身や会社がそれを遵守していなければ何にもなりません。
企業は従業員を、従業員は可能な限り自分の身を守る必要があります。
改めて自分の耳と向き合ってみてはいかがでしょうか?

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大沼 泉株式会社ドクタートラスト ストレスチェック研究所

投稿者プロフィール

結婚・出産・育児といったライフイベントを乗り越えながら女性がいきいきと働くには、どんな職場環境が望ましいのか。ブラック企業から転職し、産休育休を経た経験をもとに、産業カウンセラー、そして働くママ社員の立場からさまざまな情報をお伝えしてまいります。
【保有資格】産業カウンセラー
【ドクタートラストへの取材、記事協力依頼などはこちらからお願いします】

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